「賭をしないか?」


ネウロは手にしたカード、トランプを器用に切りながらにっこりと深緑を細めた。


「賭?」

「そうだ。ポーカー勝負で、自分のして欲しい事を相手に求める権利を賭けるのだ」

「え?じゃあ、私が勝ったらずっとご無沙汰だった謎、食べさせてくれる!?」


私は謎を食べる魔人。ネウロはこの地の公爵。

緑掛かった金の後ろ髪、漆黒の艶やかな髪の毛先に付けた金属の飾りを揺らし、仕立ての良い上等な服を着て、その端麗な顔の一対の深緑の瞳を細めて私を見つめるネウロは、美食家、もとい悪食家だ。

出会って早々、魔人の私を本気で食べようとした、とんでも無い人間だけど、私に謎を食べさせて貰える約束で、私はこいつの側にいる。

そんなネウロの前に思わずテーブルに手を突いて身を乗り出すと、ネウロはカードを配りながら深緑を細めた。


「我が輩が勝ったら、今日一日、我が輩の命令は絶対厳守だぞ?」

「姿煮とか丸焼きとかはごめんだよ!」

「ちっ」

「忌々しそうに舌打ちすんな!!私を食べる事から離れるなら良いけど・・・」

「ふむ・・・」


ネウロはトランプを配り終わり、しばらく考え込む様に自分の顎を摘んで。


「良いだろう。我が輩が勝っても、今回は貴様を喰うのは勘弁してやる」

「今回は、じゃなく、永遠に、を希望するよ・・・」


溜息を吐いて肩を落とすと、ネウロは唇を薄く吊り上げて。


「・・・で、どうする?やるのかやらんのか?」


裏返しで配られるトランプの複雑な柄を見ながら、私は喉を鳴らした。

勝てば久々の謎喰い。負けたら間違いなくネウロに人権を無視される。魔人の私に人権はないけど・・・。

でも、だけど・・・久々の謎を食べられるチャンスだし・・・。


「やる・・・」


豪奢なテーブルを挟んでネウロと向き合う様に椅子に座って、私はネウロを見た。


「そう来なくてはな」


ネウロは薄い唇を吊り上げ、楽しそうに嗤った。



〜Yako a la mode〜(ペリエ★)



「ロイヤルストレートフラッシュ」


ネウロはそう言いながら、自分のカードを表に返してテーブルに置いた。


「えっ!?嘘っ!!」


私は自分のカードとネウロのカードを見比べて、冷や汗を流した。


「貴様は?・・・ブタか。流石家畜だな。ポーカーでもその身に染みついた家畜根性は抜けぬらしいな」

「家畜根性って・・・でも、全然良いカード来なかったもん!何であんたの所ばっかり強いカードばかり行くのよ!?」

「人徳だ」


ネウロはそう言いながら、細身の黒いスラックスに包まれた長い足を、嫌みったらしく組み直して。


「さて、賭に勝ったのは我が輩だ。まずは風呂に入って貰うか」

「・・・は?」


私は目を点にしてネウロを見る。


「お風呂って・・・私は魔人だから、お風呂に入る必要はな・・・うぎゅ!!」

「水風呂で体を洗ってこい。ああ、あと体温は10度を保っておけ」


私の顔をぐいぐいテーブルに押しつけて、ネウロはにっこりと私に命令を下す。


「意味分かんない!!何!?その細かい注文っ!!」

「魔人は自分で体温調整が出来るのだろう?賭に勝ったのは我が輩だ。さっさと言われた通りにしろ。出来なければ、今すぐ活け造りだ」


ネウロは鼻を鳴らして私から手を放して。

私は泣く泣く、お城のお風呂場に向かった。

お城のお風呂場で服を脱いで、猫足のバスタブに足を入れる。

シャワーのコックを捻ると、冷たい水が体に掛かる。

魔人の私には気温や水温はあんまり関係ない。冷たい水でも熱湯でも、特に何も感じない。

お風呂なんて、水浴びなんて、私には必要無いのに。

そんな事をブツブツと思っていたら。


「ちゃんと全身洗っているか?」

「うわぁ!?ネウロ!?」


いきなり声を掛けられて、私はバスタブの中で飛び上がった。


「五月蠅いぞ。イキが良いのは結構だが、風呂場では声が反響する」


言いながらネウロは、私が全裸でお風呂に浸かっているにも構わず、手にした銀のお盆を台の上に置いた。

お盆の上には色とりどりの果物と、生クリームのホイップ袋。


「な・・・なんで果物・・・?」


私は自分の体を抱きしめてバスタブの中にしゃがみ込んだまま、思わず首を傾げる。


「前々からずっとやってみたかったのだ。これは貴様の同意が無ければ出来ないからな」


ネウロはいつもは垂らしている金の後ろ髪を結い上げ、絹のブラウスの袖を捲って。


「同意って・・・?」


不穏さに眉を顰めると、ネウロはバスタブの中の私を見下ろしながら。


「そんな事より、体は洗ったのか?」


バスタブにしゃがみ込む私に近づき、無遠慮に私を覗き込むネウロから、私は慌てて手で胸を隠した。


「覗かないでよっ!H!!」

「隠すほどの胸でもあるまい。それに既に見慣れている」


どちらも困る発言に、私は耳まで赤くなる。

こいつはっ・・・!涼しい顔してとんでも無い事を言いやがる・・・。

バスタブの水に口まで浸かって縮こまると、ネウロの手が水に突っ込まれ、私のウエストを掴んで引きずり出した。


「ひゃあぁっ!?」

「暴れるな。賭の内容は我が輩の命令の絶対厳守だったろうが」

「だっ・・・だけど!!何する気なの!?」


ネウロはびしょ濡れの私をそのまま運んで、側の台の上に仰向けに乗せた。


「3時のおやつだ。今日はプリン・アラモードもとい、魔人・アラモードを食する事にした」

「誰が3時のおやつだっ!?今回は私を食べないって言ったじゃんっ!!」

「人の話は最後まで聞け。貴様の体の上にクリームや果物を載せて飾り付けて、それを喰うだけだ」


ネウロはそう言いながら、生クリームのホイップ袋を手に持った。


「ちょ・・・やめ・・・!」

「ああ、イキが良いのは結構なのだが、暴れると盛り付けられん。大人しくしてろ」


にっこりと笑顔を浮かべて、私の喉元に突き付けたのは、ぎらりと輝く研いだ肉切り包丁・・・!!

喉を鳴らして動きを止めると、ネウロは糸の様にその深緑を細めたまま頷いた。


「ふむ。素直でよろしい」

「ちっともよろしくないよっ!!」


ちくちく突き付けられる刃物が怖くて、それでも私は引きつりながらもじっとしているしかない。


「貴様の胸はまな板だからな。せっかくだからここはサービスして盛り上げてやる」

「そんなサービスいらんっ!・・・ひぅっ・・・!」


胸の上にぽってりとした冷たいホイップが盛られるのに、私は息を詰める。

ネウロは涙目の私に目を細めて嗤うと、下半身にも生クリームを伸ばしていく。

冷たい感触に息が詰まる。魔人の私には体感温度とか関係無いのに。


「ふむ。下地のクリームはこれで良いか」


震える私にお構いなしで、ネウロは手に付いた生クリームをぺろりと舐めて、カットした果物を指に摘んだ。


「果物は領地の旬の物だ。イチゴにマスカット、チェリー。バナナにオレンジなどな」

「バナナは違うと思う・・・」

「ほう。魔人でも人間の作物の産地が解るのか」

「分かるよ・・・って、わぁっ!くすぐったい!!」

「暴れるなと言っただろう?」


意外と真剣な表情で、淡々と私の体にフルーツを盛りつけをしながら、ネウロは私を見下ろして、満足そうに唇を吊り上げた。


「ふむ・・・綺麗に出来たな。涙が出るほど貧相な貴様でも、こうして飾り付ければ食指が動くと言う物だ」

「いつでも喰う気満載の癖に・・・んんっ!?」


ネウロは長い指に摘んだイチゴを、私の唇にぐいと押しつけた。

口の中に柔らかなイチゴが押し込まれるのに、私は焦って吐き出そうとした。

私は魔人だから人間の食べ物は食べられないのに。

その時、私の顔にネウロの顔が覆い被さる様に近づいて。

ネウロの唇がイチゴを載せた私の唇に触れて。

ネウロと私の唇の間で潰れたイチゴの果汁が、つうと口の中に入って来るのに、私はぎゅうと目を閉じた

魔人の私には、人間の食べ物の味なんか分からないのに・・・。

イチゴの果汁が舌に酷く甘くて・・・くらくらする・・・。

イチゴとは違う物が口内に入って来る。それ既に慣れた感触だった。

ねっとりと舌を絡ませられて、私は思わず身を固くする。

体温を下げてるせいかな・・・。

ネウロの唇が・・・舌が・・・酷く熱く感じる・・・。


「んっ・・・んん・・・」

「ああ。思った以上に・・・甘いな」


果汁で濡れた私の唇を舐めて、ネウロは嬉しそうに深緑を細めて。

顔を下げて胸に盛った生クリームを舐めるネウロに、私はびくんと身を跳ねさせた。


「ここも甘いな・・・」


生クリームに塗れた私の薄い胸を舐め上げ、ネウロはうっとりと呟いた。


「やぁ・・・んっ・・・それ駄目・・・ああん!」


全身に伸ばされた生クリームを舐め上げられ、その丹念な舌先に思わず声が上がる。


「予想以上の美味さだ。女体盛りは正解だったな」

「にょ・・・にょたいもり・・・?」

「ああ。全裸の女の体の上に食材を盛りつけて、羞恥に悶える女を鑑賞しながら喰うという物だ」

「なんて悪趣味っ・・・!ひっ・・・あぁっ・・・!」


ネウロは私が動けない事を良い事に、私の全身に好き勝手に舌を這わせ、舌先で生クリームを掬い上げて。


「嫌っ・・・!だめぇ・・・・!」


生クリームを舐め上げる舌が、肌をかすめるのにぞくりと背筋にしびれが走って。


「やだっ・・・それ嫌ぁ・・・!」


首を左右に振って体を強張らせると、ネウロは私の手首を拘束する様に手を添えて。


「今日は我が輩の命令を絶対厳守だが、嫌なら魔力を使って逃げれば良い」


囁かれた低い声に、伏せられた深緑に、私は目を見開いた。

確かに魔力を使えば逃げられる。

逃げられる・・・けど・・・。
じっと私を見つめる深緑に絡め取られる。体が・・・動かない・・・。

ネウロは硬直する私の顔を見下ろし、ふっと唇に笑みを浮かべて。


「同意を得た・・・という事で、良いな?」


ネウロは私の頬を黒革手袋の掌でそっと撫でて、顔を近づけて。


「貴様は我が輩のおやつなのだ。美味しく喰ってやるから感謝しろ」


私の唇にネウロの唇が降りて、甘く舐め上げられて。


「ヤコ・・・甘いぞ」


甘く囁き、その舌先が再び胸に、お腹に伝って。


「ここも・・・貴様の蜜とクリームが混じって、酷く甘そうだな・・・」


囁きながら、ネウロは私の足の間に顔を埋めて。

ぴちゃりと熱い舌先で舐め上げられる感覚に、勝手に腰が跳ねて。


「ひあっ!やぁ・・・んぁっ!ああぁっ!」


その蕩けそうに甘い快感に、いつの間にか私はネウロの甘い舌の下で身をくねらせていた。





「ネウロの馬鹿っ!変態っ!!」


ようやく拘束から解放されて、私は台の上でネウロの上着を引ったくって、体を隠して喚いた。

「変態とは失礼な」

「変態でしかないじゃん!体に盛るだけじゃ飽きたらず、ナカに果物突っ込んだり・・・変なモノまで掛けてっ・・・!!」

「我が輩特製のクリームの事か?」

「やんわりと言っても代わらないよ!しかも謎しか食べられない私に、無理矢理呑ませようとするなんて・・・!この変態っ!ドSっ!!」


ぎゃんぎゃん喚く私にお構いなしで、ネウロは結い上げた髪を解きながら。


「貴様のおかげで我が輩もベタベタになってしまったぞ。風呂に入るから背中を流せ」

「・・・人の話、聞いてる?」


マイペースなネウロにがっくりと肩を落とすと、ネウロは私を横目で眺めて。


「貴様も十分楽しんだだろうが?あんなによがり狂って乱れて・・・我が輩が変態なら、貴様も立派な変態だ」


私は耳まで真っ赤になって、せめてもの抵抗でネウロを睨んだ。
ネウロは鼻で嗤うと、台の上の私をひょいと持ち上げて。


「わあぁっ!?」


ネウロの肩に担ぎ上げられるのに、焦ってじたばたと暴れると、ネウロは楽しそうに私を運びながら。


「本当にイキの良い魔人だ。今度はどうやって料理してくれようか・・・」

「も・・・もうたくさんだからっ!!」

「とりあえず、風呂で汚れを洗い流して、それからだな」

「そうやって自分のペースに持って行くなっ!もう二度とこんな賭しないからっ!」


私の叫びに、ネウロは薄い唇をにやりと吊り上げて。


「今日一日、我が輩の命令は絶対厳守だったな。ヤコ」


ぐっと言葉に詰まる私に、ネウロは思いついた様に手を打って。


「ああ。魔人は体温調整も思いのままだったな。今度はチーズとトマトソースを載せてみよう。程良く溶けるまで体温を上げて・・・」

「本当にもうたくさんだよっ!!」


涙目で喚く私に、ネウロは心底楽しそうに嗤うだけだった・・・。



FIN


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