*do-jyo”ODAI”*

□夏の夜の夢*姫川悠
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"ねぇねぇ

悠くんをあたしに頂戴?

あたしだけの

悠くんにしたいの"






え…

あなた…誰?






"あなたのライバル―…"
























(…………ん…暑い……)










チカチカと

瞼を照らす光の気配と

じっとりと

身体に纏わり付く生温い空気に

ぼんやり目を開けると

そこには

姫川くんの背中があった








良かった…

夢だったんだ……




でも私の"ライバル"だなんて

ホント失礼な夢


私だって

まだ名前で呼んだ事ないし、

"私だけの姫川くん"

って言える自信ないのに…












何かをせかせかと作業する

姫川くんの背中に

起きたよ と

告げようとした時

妙な違和感を感じた






なんか…

姫川くんいつもより

大きくない…?








姫川くんの異変に

身体を起こし

傍まで寄ってみると


振り返った姫川くんの口から

思いもよらない名前が

発せられた―…






















「お、ササニシキどした?」










今…


なんと……?








その名前に

私は慌てて自分の身体を

見回す






手が…


手が白いっ!!




私…


ササニシキになってるの!?












「ササニシキどーした?具合でも悪いのか?」






その言葉と同時に

私の身体はフワっと浮き

乗せられたのは

姫川くんの膝の上










「大丈夫かー?」








だ、大丈夫なわけ…

ないでしょ!!






「おまっ…!暴れんなよっ!……つかホント大丈夫か?」










私の抵抗も虚しく

一層心配してくれる姫川くんは

私の身体…

ササニシキを優しく撫でてくれた




こんな優しい姫川くんの顔…

見た事ないな……










「あ、そーだっ!ササニシキ!俺お前に報告があんだ!」






報告…?

何だろ………………っわぁ!






姫川くんは

私の脇腹を持つと

自分の顔の前まで私を持ち上げ

ヒヒッと白い歯を見せた




つか…

顔が近いっ!!










「コホンっ!…え〜この度、彼女が出来ましたっ!」






…へ?

か、彼女って……


それって私の事…よね……?










「…っはぁ〜!やぁーっと言えた〜っ!」








大きく肩で息を吐き

姫川くんは俯いたかと思うと

私を膝の上に戻し

"内緒の恋だからなっ"と

切ない笑顔を見せた








そうだよね…

私達の事…誰にも言えないもんね




年頃の普通の男の子なら

きっと

友達に話したり

自慢したりしたいはずなのに

私が相手だから…








ササニシキに見せる

姫川くんの顔は

優しかったり切なかったり


色んな姫川くんを見てる

ササニシキをちょっとだけ

羨ましいだなんて

思う自分がなんか虚しい








「ササニシキっ!今のは俺とお前の秘密だかんなっ!」






つか、

ウサギ喋れないし!




なんか…

なんか悔しいなぁ…


秘密とか言ってる姫川くん

めちゃめちゃ可愛いんですけど…










姫川くんの膝の上で

何ともいえない

複雑な気持ちの私をよそに

とんでもない訪問者が

ウサギ小屋に現れた










「悠くん、こんな所にいたの?」


「お、佳都!」






"私"が来たし…


つか、絶対に中身……

あなたよね?






キッと睨み付ける視線に

気付いたのか

"私"は私を高い位置から見下ろし






「悠くん、一緒に帰りましょ?」


「おぅ!ちょっと待ってて!」






姫川くん!私はここだよ!

行かないで!






「ササニシキ?どした?」


「悠くん?どうしたの?」


「や、ササニシキが指掴んで離さねんだ」








その瞬間

さっきまで見下ろしていた

"私"が

姫川くんの隣に屈み

姫川くんに顔を近付けた…







「"私のもの"って証明すれば離れるかも…」


「え…?けい………………






だっ…

だめーーっ!!




















「………………ってぇ!!」


『キスしちゃだめっ…………って…え……?』








姫川くんの絶叫と

自分の声に気付くと

そこは

夜の公園だった






あれ…?


私どうして……?








「佳都っ…!わりぃ…手っ!」


『えっ?…あ、ごめんっ!』






姫川くんの絶叫の理由は

どうやら私みたい…


繋いでいた手を離すと

姫川くんは顔を歪めながら

ブンブンと手を振っていた


その手には

くっきりと残る"爪の跡"








『姫川くん…あの、私……』






イマイチ状況の掴めない

私の心を察したのか

姫川くんがぶっきらぼうに

"喋ってる途中で寝やがった"と

説明してくれた








『私ってば…ごめんね……』


「お、おぅ…別に佳都の寝顔…見れたしなっ///」








そう言って頬を赤らめて笑う

姫川くんの顔が

なんだか優しかったから

夢見の悪いモヤモヤ気分も

吹っ飛んだ気がした










「ぅし…帰るぞっ!」




ベンチから立ち上がった

姫川くんが

私に手を差し延べる






『…うんっ!』




それをそっと握り返す








私達の時間はまだ始まったばかり

ゆっくり歩いて

色んな姫川くんが見付けられたら

いいな




いつか絶対"悠"って

名前で呼べるまで

もうちょっと待っててね










『あれ…?姫川くん、中指どうしたの?』


「あ、コレ?ササニシキに秘密の話したらイキナリ噛み付かれたっ!」


『秘密の話…?』


「……内緒だっつーの!」







End.


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