*afterschool・1*

□親指の神様*姫川悠
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「ねぇ、姫川くん?さっきからどうしたの?」













陸にそう言われ顔を挙げると

眉毛を"ハの字"にした

陸の顔がオレを覗き込んでた













『何でもねぇよ…』


「そう?…でも姫川くん、さっきからケータイとにらめっこしてるよ?」


『何でも…ねぇよ……』


















親指ひとつで押せる

カンタンな言葉




"話がある"






アイツに送ってから

何時間経ったのか…


未だに鳴らないケータイを

眺めて

何時間経ったのか……
















「何でもないならいいけど…僕そろそろ帰るね」


『あぁ、じゃーな』


「うん、バイバイ」












教室を後にする

陸の背中なんてどうでも良かった

オレは、今

目の前のコイツで

精一杯だ…















放課後の教室なんて

補習以外で残った事なんて

今まで無かった


昼間とは違う雰囲気を漂わせ

オレを不安の海に沈める


















『んで…返事ねーんだよ』












確かに

内容には触れてないし?

話っても色々あると思うし?

アイツだって忙しいと思うし?


頭では解ってんだよ




けど、

何かしら入れてくれても

よくね?




これじゃ

何もしないで終わりじゃん…



















気付いたら

空がオレンジから群青色に

変わってて


オレは

重い足を引きずり

教室を後にした




校庭を歩きながら

明日からどんな顔をしようかとか

"さっきのメールはナシ"って

送ろうかとか

考え出したらキリがなくて




それでも

頭ん中はアイツでいっぱいで

主の居ない研究室を

見上げた
























『つか…何でまだ居るんだよ……っ!』













暗い校舎に

ポツン、と明かりが灯ってる

その部屋は

まさにオレが待ち焦がれてた

メールの送り主の研究室












『………くそっ!!』















怒り?


苛立ち?


期待―?








たった4文字の為だけに

バカみたいに

靴を脱ぎ散らかして

上履きも履かないで

アイツのいる研究室に

ダッシュするオレ








超ダセェ!


超ダセェ!!


超ダセェっ!!!





















―――――――ガラッ!!














「ひ、姫川くん!?…もービックリさせな…………


『ハァ…ハァ………ん…で……』


「えっ?」


『何…で……メールの返事……』


「な…何……?」


『何でメールの返事くれねんだよっ!!』


「メール?…あ、ごめん…私、今日携帯忘れちゃったのよね…」

















は…?




はぁぁぁぁっ!????













唖然とするオレに

ムカつく位フツーに

"何て入れたの?"って

首を傾げながら

言いやがって……




マジでムカつく……
















『おいっ!**!!
オマエ家帰ったら絶対レスしろよっ!!』


「今教えてくれてもいいじゃないの…」


『うっせー!いいから絶対レス!しろよっ!…じゃーなっ!』


「?…うん、分かったけど…姫川くん上履きは?」


『////…っせーよっ!』





















それから家に帰ったオレは

真っ黒な靴下を

かーちゃんに怒られて

アイツの悪口言いながら

ひとり風呂場で靴下を洗って




ようやく部屋に戻って

ケータイのランプに気付いて

開いたら

アイツからのメールが入ってた














"メール見たよ。遅くなってごめんね…
って…何かくすぐったいね"















**の意味わかんねーレス見たら

イライラも

かーちゃんに怒られた事も

全部チャラになって

こんなんで嬉しい自分が

また意味わかんねってカンジで




逸る気持ちを抑えながら

アドレス帳から

大好きなヒトの名前を捜す




そして

親指にありったけの

想いを込めて―…

















『…あ……もしもし…………











End.

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