*afterschool・1〜long*

□恋愛スピリッツA*深國明彦
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『ダメ…離さない……』















あの日

涙の跡と小さな痛みを

俺の胸に残していった彼女は


次の日からは

何事も無かったかの様に

教師の顔を取り戻していた






あの放課後から1ヶ月


教師の顔とただの女の顔

ふたつの彼女の顔が

俺の隣にある






涙に濡れたあの日から

時折、俺の領域に現れては

たわいもない話をしてく

彼女




でも心は繊細で

思ってた以上にオンナで

自分以外の温もりを

求めようとする彼女も存在する




頭を撫でてと言われれば

撫でてやり

ギュってしてと言われれば

望み通り

この胸に彼女を抱く






けれどそれ以上先の話はなく

ただ ただ

偽善の仮面を被って

その時を息を潜めて待ち

彼女の望みを叶える為だけに

存在している





















「…………くん……深國くん起きて!」








遠くからする声に目を開けると

俺のアタマの上で

仁王立ちの彼女の姿










『…ん〜いい眺め♪今日はピンクかな〜?』


「えっ…………き、きゃあっ!」








動揺する彼女に自然と綻ぶ顔


ニブいね〜と笑いながら

彼女の顔に

笑みが戻ってきてる事に

少し安心する俺










「もうっ!深國くんのバカっ//」


『バカって…クスクスッ……自分がいけないんでしょ〜?』


「そ、そうだけど…///」







頬を赤らめながらも

何か物言いたげな彼女の仕草が

目に入る




今はもう跡すらない

その指を

無意識に触る時は

"オネダリ"したい時












『どうしたの〜?…何?今日はひざ枕〜?』


「……ううん」


『じゃ、いいこいいこ〜?』


「違うの……深國くん、今日一緒に帰らない…?」












今まで1度も

学園外での時間を共有しなかった

彼女が

寄りたい所があると

俯いて言うから

俺を誘った彼女の心中は

なんとなく理解出来た




ひとりじゃ

行くのに勇気がいるんでしょ?


そう心の中で呟き

彼女に笑顔を向け頷いた
















校門で待ち合わせた彼女は

口を開く事なく

ただ無心に歩いていく




俺はその後ろを

違和感ない距離を保ち

彼女の小さな背中を眺めながら

ついていった








彼女の後を追い

着いた場所は高台の公園


展望台に上がり

街を見下ろす彼女を横目に

傍にあるベンチに腰を下ろした




大方

この場所で愛を誓ったとか

愛を終わらせたとか

そういう事なんだろうけど

未だ口を開く気配のない彼女に

そんな野暮な事を

聞けるワケもなかった












「深國くん…」






振り向いた彼女が

俺の名を呼ぶ




そんな瞳で

名前を呼ばないでよ


そう彼女に伝え

立ち上がり彼女を抱きしめた










「彼に別れを告げたのは私なの」




「けれど…やっぱり好きなの…」








俺の腕の中で

アイツを被せないで?

アイツを着せないで?




偽善の仮面は

もう俺には息苦しいだけの

飾りでしかないと

その腕に力を込める












「深國くん…痛いよ……」


『俺も痛いよ…?』


「……ごめんね」










言葉とは裏腹な

彼女のか細い腕は

しっかりと俺の背中に回り

俺を強く拘束する






アイツが傍に居ないから

今一緒にいるのは俺だから

だから

俺を手放せないんだね




じゃあ少しくらい

俺も求めていいよね…?












『さやかちゃん…ね、うちに来ない?』


「ダメよ…」


『嫌じゃなくてダメなの〜?』


「……」










腕の中にいる彼女の額に

唇を押し当てる


その感覚に

彼女が顔をあげたから

俺は願いを込めて口づけた






どうか

無意味なものにならないでね

今すぐ

意味のあるものになってね








唇をゆっくり離すと

空には一番星が

彼女の頬には一筋の涙が

か弱く輝いていた










and more…


.

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