*afterschool・1〜long*

□恋愛スピリッツB*深國明彦
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彼女の光る涙は

頬をするりと滑り落ち

それはまるで

スローモーション




指ですくえば

彼女の瞳が俺を捕らえ

またひとつ

小さな痛みが胸を刺す
















「…っ、深國くん…ダメよ…」








まただ…


拒まないくせに

受け入れるくせに




何の手出しも

何の言葉も

彼女には届かない事は

十分に理解している


けど、

彼女の揺らぐ瞳に

苛立ちが収まらなくなる












『さっきっから…何がダメなワケ?』


「深國くんを……」


『俺を?』


「……傷つけてるもの…」










一応

分かってるんだね


俺の気持ち

分かってるんだね




じゃあ何で

じゃあ何で……












『…って言ってる割に、手、緩めてくれないの〜?』








その言葉に

俺の背中に回していた腕を

パッと離し

俯きながら手で口元を

抑える彼女




その手が微かに震えているから

さっきより雫が増えてるから


だから

どんなにイラつこうが

届かなろうが

離せなくなるじゃないか…












『さやかちゃん…ごめん……』


「…みく……っ…」


『ごめんね』


「……っ」










再び抱き留めた彼女は

子供の様に

声を上げ、肩を揺らし

すがる様に

俺の胸に顔を埋めた






無意味なものになってもいい

意味なんてなくてもいい

こんな華奢なオンナを

離す事の方が

今の俺には罪深い―…

























『どう…?少しは落ち着いた?』








泣き崩れる彼女をベンチへ座らせ

自販機で買ってきたお茶を

目の前に差し出す




ありがとう、と

か細い声で呟いた彼女は

俺の手からペットボトルを

受け取るものの

ただそいつを握りしめ

俯いたままだった










『さやかちゃん〜ハンカチ貸してくれる?』


「え…あ、はい…」


『ありがと〜…んで、頭ココに置いて?』








トントンと膝を叩く俺を

目を真ん丸にして

見上げる彼女


躊躇する彼女の肩を

お構い無しに抱き寄せ

膝の上に寝かせる








「ちょ…深國く……


『目ぇ、閉じて〜?』








彼女の手から取り上げた

ペットボトルを

ハンカチで包み

彼女の腫れた目元に置くと

気持ちいいと

彼女は少しだけ口元を綻ばせた




彼女の気持ちとか

俺の気持ちとか

今はなんとなくどうでもよくて

ただ泣き止んで

笑顔を見せてくれればいいなんて

彼女の頭を撫でながら

そんな事を思ってみる








街に溶けていく太陽を眺めて

無言のまま

時間に身を委ねていると

彼女が俺の手をそっと取り

静かに口を開いた








「深國くんありがとう」


『もう大丈夫〜?』


「うん、スッキリしたよ」






ハンカチから覗かす彼女の瞳は

確かに赤身も引き

腫れも収まった様に見えた




彼女は俺の膝から

ゆっくりと起き上がると

フワっと微笑み

意外な言葉を口にした






俺はその言葉で

自分の理性が途切れる感覚に

初めて襲われた




けど

失っちゃダメなんだ


自分にそう言い聞かせて

俺なりの

最大の厭味を吐き出した








『好きになっちゃいなよ〜俺、優しいし〜?』












"深國くんの事、好きになれたらな"






どうせただの冗談か

その場の雰囲気で

言っただけ


なら、

俺だって冗談で返すだけ




どんなに厭味を言っても

この距離は

覆らないのは知ってるから






けど次の瞬間

俺の冗談めいた厭味が

ホンキへと変わっていった…












「深國くん…」


『ん?な〜に?』


「深國くんを…好きになり…たい……」










俯きながら

そう呟く彼女の右手は

左の薬指を


何度も

何度も

触っていた―…










and more…


.

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