キツネ物語

□裏切り.2
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 広域把握にとって仕事は辛いだけのものだった。
 その仕事には、充実感も無ければ達成感もない、使命感なんてありはしないし、義務感なんてものもない。ただ、広域把握がその仕事をするのは責任感のみである。

「(私が、彼を守る方法はこれだけ。できるだけ的確に、彼らを殺さぬように、生かす指示を)」
 広域把握はノートパソコンに素早く文字を打つ。
 内容は、『24〜27ーNEーSーA』

 意味は、24番から27番は北東から能力を使い攻撃せよ。

 広域把握は自分の能力で指示の結果を把握する。そしてその指示の内容、試験体の反応、対応速度、指示の結果の順にまとめ、レポートとしてノートパソコンに打ち込む。

 それが次の開発に反映されるのだ。
 広域把握は下唇を噛み締めた。結果はずさんなモノ。
 四名とも死亡。直接の死因は全身火傷によるショック死だが、その直前に四名とも錯乱のち発狂したのだ。
 だから、灰になるまで焼いたのは妥当な処理なのだ。
 廃棄物として。
 広域把握は、きわめて冷静さを保ちつつ、今回死亡した四名の生きていた痕跡を消すように指示をだす。
 もとより身寄りの無い彼らの痕跡など楽に消えてしまうだろ。広域把握の持つUSB以外には。

「(ごめんなさい。カイ、シンヤ、ユキ、カオル。こんな事をしても何の償いにはならないかもしれない。でも……)」

 広域把握は、彼らを忘れないようにと記憶に刻むと、すぐに気持ちを切り換える。徹底的なまでに冷酷に。
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