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□第五幕
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諸里はオーエン・コルファー・マンションの駐車場へ来ていた。
マンションの住人には車を持つ世帯が少ないのか、それともこれから埋まってくるのか、現在駐車場は空いていた。
車を持ちそれで今から出かけるわけでもなく、諸里は駐車場をぶらぶら歩く。
オーエンコルファーの敷地は広いもので、その大層なマンションを除けば、あたりに大きな建物はない。
なので、見上げる空は大きく見えた。
駐車場の真ん中に座り込み、やがて大の字に寝て、ずっとそうして星のまばらな空を見上げる。
月はあたりを眩く照らすほど明るく、地上にある蛍光を全て消したいとも思えた。
「…………露乃ちゃん」
瞼を閉じれば、見えるのは星ではなく、真暗で、浮かぶ虚像も切なく消え霞む。
駐車場のアスファルトはとても冷たかったが、酷く眠たくさせた。
「…おやおや駐車場で寝るとは非常識な子供も居たもんですね」
ゆっくり話すその声に、眼を開けてしまう。
視線をずらすと、トレーナーとジーンズを着た、年配の男性が立っていた。
皺のある唇に挟んだ煙草が、長い前髪を今にも焦がしそうだった。
吸うでもなく、捨てるでもなく咥えられた煙草の灯りは、月とも星とも蛍光とも違う火の灯りだった。
諸里はさ、と上体を起こし、男性に笑いかけた。
「すいません。誰も居ないとはいえ、何も考えないで」
「ええ、そうですね諸里の真一。危険と迷惑を貴方は考えなかったかもしれません。何故なら他のことを考えていたから」
「……よくわかりましたね」
「すごいでしょう、と誇れないのが残念です。さっき貴方の口から留辺蕊の露乃の名前を聞いてしまって」
にぃ、と口角を上げて笑う男性。
けったいなほど苦々しく諸里も笑い、上を見上げた。
見たのは星ではなく、露乃の居るマンションだった。