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□第六幕
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露乃が起きた朝はいつもより遅いくらいである。
それでも余裕をもって登校できる時間なのだが、常の習慣が露乃を焦らせる。
朝食もよく噛まずに嚥下し、早く飲もうとした熱い珈琲でうっかり火傷しそうになった。
制服も乱暴に着て、靴をはいて外に出る。
こけそうにもなり、自分のそそかっしさを呪った。
ドアを開けてそとに出ると、廊下の手すりに寄りかかった諸里が居た。
空に向けていた顔を露乃の方へ向け、可笑しそうに笑む。
「ふっふっふー。すこし遅かったじゃない。寝坊?」
本当を答える気にもなれず、曖昧に頷いておいた。
ちゃんと、というとあまりにも従順すぎて情けないような気がするが。
ちゃんと、諸里の言った通りに『彼等』のことを考えていたのだ。
そのうち眠れるだろうと思っていたのだが、不可解な事が多すぎて却って寝れなかった。
次の部活動…つまり今日の集合まで考えておけばいいのだろうが、何一つ分からない。
不安定な気分のまま眼が醒めてしまった。
エレベーターへ向かう諸里の後ろについていく。
廊下のコンクリートが直接触れていないのに、冷たく硬く思えた。
エレベーターに乗り込み、ボタンを押した諸里の視線が露乃に注がれる。
全身くまなく見られているようで、心地が悪い。
ついに堪えかねて露乃は何なのか、と訊いた。
「…幾ら急いでいても身だしなみくらい確認しようよ」
「うぇ」
唸ると諸里が一笑し、露乃のずれたタイリボンを直す。
ブラウスの皺をも伸ばすと、諸里は満足げにゆるゆると微笑んでいた。