銀神de小説
□赤いいろ
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朝起きると違和感があった。
とてつもない、寒気さえ感じる悪寒に、私は目を覚ました。
――手が真っ赤。
手だけじゃなくて顔も首も、全部が真っ赤だった。
いや、私が赤いんじゃなくて、私に付着しているものが真っ赤だった。
それが寝巻きに張り付いている。
きもちわるい…
恐る恐る襖を開ける。
そこはいつもと変わらない万事屋の居間だった。
足取りが覚束なくて、押し入れから飛び降りたとき着地に失敗。
痛い。
「銀ちゃん……」
不意にまた、寒気を感じる。
落ちて感じた床の温度がとっても冷たくて、足がピリピリする。
でも痛みを訴える足を無視して私は踏み出した。
ところでさっき私が感じた赤いものは何だったのだろうか。
再び目を掌にやる。
「あれ?」
掌はいつもと変わらず、真っ白だった。
錯覚だったんだろうか?
寝巻きもただたんに赤いってだけで、それが肌に湿り気を含んで張り付いていたと言う感覚も錯覚だったようだ。
ひとまず安心する。
良かった、血じゃなくて。
這うように銀ちゃんの寝ているはずの和室へ向かう。
ふと、居間でカチコチと時を刻む掛け時計を見ると、まだ真夜中の2時だった。
寝ぼけているのか?
だったら寝床へ戻らないといけない。
けれど歩みは止まらない。
寒さに身を震わせながら、和室の襖に触れる。
それはカラカラと静かな音をたてて横にスライドして開いた。
なんで自分がこんなことをしているのか、わからない。
けれど、一目銀ちゃんを見て、眠りたかった。
「・・・・いた」
そこには間抜けな面で鼾までかいて寝ている銀ちゃんがいた。
よかった。
銀ちゃんはここにいる。
それだけで、安心できた。
力尽きたように足元から力が抜けた。
スルスルと襖の横の壁に合わせて、身体が倒れるのを感じた。
けれど起き上がる気力もない。
私はここで眠ることにした。
赤いいろ。
つかの間の眠りは、赤いいろでいっぱいだった。
それは私を蝕む悪夢の、始まりにしか過ぎなかった。
「・・ぐら!」
「!!!」
呼びかけに目を覚ます。
同時に感じた眩しさに目を細めた。
「なんでこんなとこで眠ってたんだ?」
「・・・え?」
見ると、私は銀ちゃんの寝室になっている和室の目の前で横たわっていた。
「・・・どうしてだろう、わかんないアル」
「ったく風邪ひいてねぇだろうな?ほれ、ちょっと頭かせ」
銀ちゃんの温かくて大きな手が額に触れる。
「ちょっと熱いな、布団敷き直してやるからそれまで俺の布団で寝てろ。」
軽々と身体を抱きかかえられて、銀ちゃんが寝ていた布団へ寝転ばされた。
まだほのかに温かい。
「私、風邪引いたアルか?」
「みたいよ?ったく何を思って廊下で寝てんだよ。」
「・・・覚えてない。」
気付けばそこで眠っていた。
目が覚めるまで寒さも感じなかったし、気付きもしなかった。
「夢遊病かねぇ?新八来たら病院行ってみるか。」
「むゆーびょう?」
「眠ってる間に無意識に徘徊しちゃったりな、最近の若者にはよくあるんだよ。」
・・・多分違う。
「・・・そうじゃないような気がするアル。」
「ん?」
思い出せ。
私は、昨晩、何をしていた?