小説天狼星

□〜Happy Birthday〜
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――この日は年に一度。
  天の川(ヘヴェンリー・リバー)で、牛飼いと機織り娘が、逢引きする日なんだよ?

 いつも心にユーモアを忘れない、美貌の名付け親はハリーに言った。

――……今年のプレゼントには、星空を贈るよ。
  ………君のためだけにね。
 ………今時、映画の主人公さえ言わない様なセリフが、自然に似合う名付け親―――。

 彼の名は、シリウス・ブラックと言った。


 〜Happy Birthday〜


 その日は、朝から雨が降っていたけれど、ハリーは上機嫌だった。

 雨雲の向こう側に太陽が沈んで、暗くなった部屋に明りが灯っても、雨は降り続けていたけれど、別室のリリーに名を呼ばれた瞬間、ハリーは踊った。

「は〜〜〜い、今行きまーす!!」

 今日は、ハリーの八回目の誕生日(ポッター家では、0歳から数えて誕生日を祝っている。――ハリー限定)。
 ハリーが七歳になる日なのだ。

 ――先週ギリシアから帰って来たシリウスは、ハリーに約束してくれた。

――……今年のプレゼントには、星空を贈るよ。
  ………君のためだけにね。

 手の甲へのキスは、「二人だけの約束」という合図―――。

 ハリーは、シリウスが大好きだった。
 長い、腰まで届くセクシーな黒髪に、少年の様な笑顔。
 大人の遊びや悪戯を、山ほど知っている雰囲気に、エキゾチックな物腰。

 シリウスは、ハリーによく、
――ジェームズは、私より、ずっとずっとすごかったんだよ?

 と言うけれど、父親であるジェームズ・ポッターは、空飛ぶハーレーで、マグルの飛行機を追い掛けてくれたりしないし、黒のハーフコートを、ロックスターの様に着こなして、ハリーを、人込みの中で、肩車してくれたりはしない。

 ……シリウスに言った事はないけど、シリウスに子供が出来たりしたら、その子を呪い殺してしまうと、断言出来る位に好きなのだ。

 両親とシリウス。一年毎に祝ってくれるバースディも、シリウスの時の方が楽しみだった。

 ―――魔法使い仲間でさえ、名前しか知らないブラック家。
 広大な敷地と、豪奢な邸宅。そこで、多くの失伝魔法と幻獣たちを従え、君臨している、端麗な顔立ちの兄弟。

 彼らは、ハリーの自慢のタネだった。

 …………気に食わない事もあるけれど、――――好きだった。


「はい、出来た」

 姿見の前で百面相していたハリーは、母親の一言で我に返った。
 鏡の中にいる、正装した自分――――。
 黒いブレーザーの襟元に、足りない物を見つけた瞬間、リリーが、「じっとしててね」
 と囁いてしゃがむと、銀のピンバッヂを付けてくれた。

 途端、花のような香りに包まれて、ハリーはドキドキする。

 母が、パーティーの為の身仕度を整えている証だった。

 小さなピンバッヂは、ポッター家の紋章に、彗星をあしらった物。

 父とシリウス、両方からのプレゼントだったが、―――不安になってきた。

「ねぇ母さん。
 パーティーに、マルフォイはいたりしないよね?」



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