小説天狼星
□guilty(ギルティ)
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『サイエンス』のページは、ライオンと豹を掛け合わせて、混血の雑種を効率良く誕生させる方法を、説いたものだったからだ。
勿論こちらも動じない。
「………その事で、ちょっとね」
と肩を竦(スク)めれば、途端に彼の表情は豹変する。
「……………ペチュニア(妹)、か?」
この、真摯な双眸(ヒトミ) がたまらないのだ。
「誰にだって触れられたくない事って、あるだろう?」
殺し文句だ。――今の彼にとっては、「アバダケタブラ」の呪文より効果的な……。
瞳を伏せた彼の口元には、やるせない自己嫌悪が滲(ニジ)んでいた。
…………何て美しいのだろう。
……ギリシアの大理石なんて、勝負にならない。
真っ白な肌に、漆黒の真っ直ぐな髪が、綺麗に影を落としている。
(君が悪いんだよ、シリウス。―――リーマスをかまったりするから――……)
愛は寛大だけれど、恋は盲目だ。
ひとしきりシリウスを眺め尽くしたジェームズは、瞬間。
―――微笑って言う。
「結論は、エヴァンズの物だよ?」
意外そうに上げられた瞳を見つめて、ジェームズは、優しく言葉を続けた。
「君の決定も、君の結論も、――勿論君自身だって、何にも関係ないよ?―――分かり切ってる事だと思うけどさ」
シリウスは、意外そうな表情を、みるみる眩しい笑顔に変えて、嬉しそうに、
「そうだな」
と言ってくれたけれど、ここにリーマスかエヴァンズがあったなら、大声で罵倒されていただろう。
他人の心を、勝手に弄んじゃいけない――。
………これこそ分かり切ってる事だけど、――― 君は分かってくれるよね。
君の一番でいたいんだ。
「他人の知らない顔」を、一番多く知っているのは、いつでも僕自身でありたい―――。
ふざけて口唇に落としたキスは、軽口にあしらわれ、
「鹿と犬でも雑種って出来るのカナ?」
という思い付きは、丸めた『サイエンス』を、脳天に、思い切り叩きつける、という、新たなボディランゲージで迎えられた。
そこにも、ここにも、あそこにも。
………犯罪だらけで、有罪(ギルティ)まみれ。
判例B
神聖な至聖所に、不愉快な物が紛れ込んでいる―――。
スリザリンの四年生、セブルス・スネイプは、図書館の片隅で、小さく舌打ちした。
頑丈な木台に、効果的な参考資料ばかり集め、一人の生徒の世話を焼く、三人の人物―――。