小説天狼星
□〜Happy Birthday〜
2ページ/7ページ
マルフォイ。―――ドラコ・マルフォイ――。
ブラック家の当主弟、レグルスが名付け親を務めた、ハリーの大嫌いな人間の名前だ。
向こうも自分を嫌っていて、それは素直に有り難いのだが………。
「前みたいに、シリウスの家の玄関を開けた瞬間、レグルスさんとドラコなんかが、キスしてる所とか見ちゃったら、僕、絶対死ぬよ?――誕生日が命日になっちゃうよ!」
……レグルスが、ハリーに対するシリウスと同じような感情を、ドラコに対して抱いているのが、一番の厄介事だった。
しかも、ドラコはレグルスに、家庭教師までしてもらっているのだ。
………ダイアゴン横丁のオシャレなカフェで、両親と一緒に、アイスクリームを食べている時だった。
――たまには、こういう事もしなくちゃね。
耳慣れた、穏やかな声に、
――でも先生。今は、まだ授業の時間です。
…………ドラコの、殊勝な声が重なった途端、ハリーは絶望した。
暖炉の中から出てきたレグルスは、もじもじしているドラコを引っ張りだして、服に付いた灰を払ってやっている所だった。(暖炉の近くに、灰を払う所があるのだ)
シリウスもそうだが、レグルスもブラック家の人間。
目ざといウェイターが用事を聞き、レグルスが、何とかと答え応じている間、ハリーとドラコは、ただ一点を見つめ続けていた。
レグルスの握り締めた、ドラコの細い手―――……。
彼が、おずおず握り返した瞬間、レグルスはドラコを持ち上げた。
――……………先生っ!!!!
うろたえるドラコを、しっかり両手で抱き留めて、
――ここの階段は急だから、一応ね。
………大事な生徒に怪我をさせてしまったら、……ルシウスに何て言われるか………。
ああ、手助けなんて要りません。ドラコはとっても軽いから………。
それより、チョコレートケーキには、アイスクリームと生クリームを、たっぷり添えて下さい。
………ブランデーはサービスかもしれないけど、好きな子供なんて聞いた事もないし、大人も好きだとは限りませんから。
それは、以前二階に上がった時、シリウスのしてくれた事と、言ってくれた事だった。
少しは違ったかもしれないが―――……。
けれど、とにかく許せないと思った。
目撃してしまった、ドラコの、恥ずかしそうな頬へのキスも思い出して、ますます嫌な気持ちになる。
「レグルスさんは、良い人過ぎるんだ。
あんなヤツ、碌でもない人間になるって、分かり切ってるっていうのに!!!!」
正装したハリーが、手を握り締めて叫んだ時。
「おやおや、ハリー君は、そんな表情で、シリウスに会うのかな?」
開いたドアから、からかう様な声がした。
.