小説天狼星
□〜Happy Birthday〜
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真っ黒な小竜の曳く馬車に揺られ、妖精たちの歌う「Happy Birthday」を聞きながら、ハリーたちはブラック家へと急いだ。
そして、到着するなり――……。
'Happy Birthday Harry Potter.and Potter husband and wife!!!!'
派手な口上といきなりの抱擁に迎えられた。
抱きつかれたハリーは、瞬時に悟った。
―――シリウスではない――……。
「誰さっっ!!!!君っ!!??」
大柄な背丈に厚すぎる胸板。―――逆立った真っ赤な髪の所々に走る、緑のひらめき。
「―――トーク・テロパイオス。――全く、人型にしてやると、すーぐそれだ」
その、空中から響いた、涼やかな声に、ハリーは震えた。
「シリウス!!」
ギリシア神話の英雄よろしく、純白の天馬にまたがり(やり過ぎだろ……)、手にした漆黒の魔杖を一閃―――。
大男は、巨大な嬰鵡(インコ)へと変身、―――いいや――姿を変えた。
「何だったのさ!?一体!!」
頭上のシリウスに、胸の中の嬰鵡を指差すと、
「歌を歌って貰おうと思ったんだよ。―――彼は、とても良い声をしているから」
と。杖より百倍濃くて深い、漆黒の髪を見事になびかせながら。
「でも……………」
呟いて、シリウスは指を鳴らした。
「あぁっ!!」
「―――彼には、元に戻ってもらった方が良いね………」
嬰鵡は大きく翼を動かして、シリウスの方へ飛んでいく。と、その翼から、真紅の薔薇が一輪、二輪、―――――たくさんたくさん―――。
ハリー目がけて、薔薇の花が降ってくるではないか!!
嬰鵡の翼はその度に、ゆっくり静かに崩れていく。
最終的にシリウスの手元に帰って来たのは、瑞やかな緑茎を備えた、一輪の薔薇だけだった。
あの嬰鵡は、真紅の薔薇の花束だったのだ!!
呆気に取られているハリーの目の前に、白馬のシリウスが下りてくる。
艶黒のタキシードに、華やかな笑顔。
その手には、真紅の薔薇一輪。
「―――ようこそ、ハリー」
シリウスは、微笑って地に足を付けると、優雅な仕草で手綱を払い、ハリーの足元にひざまづいた。
「誕生日おめでとう、ハリー」
薔薇を手渡され、ハリーは、シリウスの微笑にくらくらした。
手の甲へのキスが、中世の騎士から貰ったそれの様に、誇らしい。
顔を上げて、ハリーにウィンクした後、立ち上がったシリウスは、諸手を広げて二人を歓迎した。
「リリーもジェームズも、遠路はるばるありがとう!」
が、馬車の中の二人は、生きていなかった。
「リリー?……ジェームズ!
…………どうして泡を吹いてるんだ!!??
何か悪い物でも食べたのか!?!?」
…………あんな物を見せられて、吹くなという方が、無理である。
ともかくシリウスは、魔法でリリーとジェームズを天馬の背にくくりつけ、ハリーの前で恭しく頭を垂れてから、右の手を差し出した。
ハリーは微笑って、その手を取る。
二人だけの、パーティーの始まりであった!!
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