小説天狼星
□Over the ”Night rainbow”
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【Over the "Night Rainbow"】
シリウス自慢の別荘・「獅子の大鎌」には、既に全員が集合していた。
やたらフリルの付いた服を着ている者。荷物を解(ホド)いて休んでいる者……。
………毎度毎度の事ながら、うんざりしてしまう。
豪華な内装に不釣り合いな、有り合わせの服を着て、荷物の事を話している父と母。二人の側には、三歳になったばかりのオーガストがいて、辺りをきょろきょろ見回していた。
壁に掛けられた、動く星図が珍しいらしい。
奥にいるのは六歳のシルヴィアだ。性格に不釣り合いな紺色のワンピースを着て、名付け親・リーマス・ルーピンと談笑しているが、嫌味の一つでも言って、化けの皮を剥がしてやりたかった。
こちらにいるのはまだマシな方だろうか。――名付け親のスネイプに、贈られた、総フリルのツーピースのお礼を言っている、三歳下のエスメラルダ。
顔が可愛いのは認めるが、黒のガウンスーツをぴっちり着込んだスネイプが、あの服を買っている場面を想像すると、背筋が寒くなる様な気がする。
――まぁ、当人同士がいいならそれで良いだろう。
………背後にいる二人組。レグルスに、「昨日は珍しいお菓子をありがとうございました」
と、嬉しそうに言っているマルフォイには、良くなくても今すぐ消え去って欲しいが……。
(―――代わり映えしない………)
ほどなくやって来たシリウスから、世にも珍しい冷やし胡蝶茶(背の高いグラスの縁に、オレンジやレモンよろしく、透き通った黒揚羽が留まっている)を受け取って、啜っていたら、溜め息がこぼれてきた。
(…………どうして僕の日常は、こんなに平凡なんだろう………)
レグルスが焼いたというミックスベリーのタルトは、程よい酸味が利いていて美味しかったけれど、個人的には、シリウスの焼いたお菓子が食べたかった。
(シリウスといれたらなぁ……。……ずっとシリウスといられたら――……)
ついさっき目にした、シリウスの眩しい笑顔。
………シリウスは、最高だ。
お菓子を作るのは上手いし、料理だって母さんより遥かに美味しい。
ゲームをしていても、怒るどころか逆に、分からない所を教えてくれるし、対戦物なら相手もしてくれる。(しかも強いのだ)
夜眠ろうとすると、必ず一度は引き止めて、高価なチョコレートを勧めてくれるし、二人だけなら(歯磨きをした後でも)バタービールを出してくれる。
口うるさくないし、ああしなさい、こうしなさい、と。命令もしない。
……でも、悪い事は悪いと、きちんと注意してくれる。
シリウス以上の大人なんて、世界中探しても、どこにもいない。
訳が分からなかった。
……なぜ、母親はシリウスを嫌うのか………。
仲の良かった、今でも親友だという父親も、そんな母の横暴を許しているのか………。
理不尽だと思った。
シリウスがいたなら、毎日はもっとずっと楽しくなるハズなのに――……。
そうして、ぼんやりしていたからだろう。
シリウスが隣に座ってくれたっていうのに。
「――お客様。ご不満がございましたら、遠慮なく当方までお申し付け下さい」
声を掛けられるまで、気付けなかったのだ!!
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