小説天狼星
□Over the ”Night rainbow”
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「幸福に、慣れ過ぎたのよ」
ポッター家で一番上等の部屋を割り振られる、ハリーの周りは、妹二人の溜(タマ)り場だった。
「シルヴィア、それってつまり、お兄さまが贅沢になったって事?」
お嬢様風のエスメラルダに、キャリアウーマン風のシルヴィア。
その年で自分のスタンスを決めている、二人の妹は、ハリーの身近に巣食う宇宙人だ。
ベッドに転がってそ知らぬふりをしていたら。
「シリウスが慣れ過ぎちゃったのよ!――だって、ひどかったでしょう?
………だから、距離を持とうとしてるのよ!きちんとした大人なら、当たり前の事だわ!!」
聞こえよがしに声を上げるシルヴィアに、眺めている本を投げつけたら、どんなにせいせいするだろう。
黙って話を聞いていたエスメラルダは、ふと思いついた様に呟いた。
「………でもシルヴィア。きっとそれは無いわ。――お兄さま、今年もシリウスとすごすのでしょう?
……パパが言ってたわ。
――『ブラックは、バカンスの場所を選ぶために世界を飛び回ってるのか、ハリーとバカンスをすごすため、「見事な風景」を見つけるために、外国を旅行してるのか、分からない』…って。
シリウスの特別は、お兄さまだけなのよ」
ポッター家では、なぜか、実の親より、名付け親の方が慕われている。
ハリーを弁護したエスメラルダも、筋金入りの名付け親っ子。――名付け親馬鹿である。
将来の夢(スネイプのお嫁さん)のため、日夜、花嫁修業にあけくれている。
クリスマスには、手編みのセーターに、唐草模様を編み込むのだと、豪語していた。
(スネイプみたいに分かり易かったらいい。
――分かり易かったら――……)
とりあえず、シリウスはハリーに夢中、という事で納得したらしい妹たちは、別の話題で盛り上がっている。
――「そういえば、今年のミス・ウィッチも、シリウスと写真を撮りたがったみたいよ?」
――「"『貴女には、もっと相応しい方がいらっしゃいます』―――九年前から変わらない台詞を、変わらない笑顔で告げるブラック氏"―――日刊予言者新聞の記者は、シリウスを撮りたかっただけよ。――――一面に載ってると、部数が延びそうですもの」
ハリーは本を放って、白い枕に頬をうずめた。
昔は一日中、眠る時も食べる時も遊ぶ時も……。
ずっとシリウスと一緒だったのだ。
わざと早く眠って、真夜中に目が覚めたら、シリウスの部屋をノックして、ベッドに入れて貰うのは、ハリーの習慣だった事もある。
(きっかけは、母さんだったな………)
シリウスのお陰で、平均以上の知性と能力を持つ様になったハリーに、ある日、母親は深刻な表情で問うてきた。
―――ハリー、貴方、シリウスをどう思ってるの?
―――彼みたいになりたい?………彼みたいな大人になりたいの?……ハリー。
………質問をよく覚えているのは、それ以来、シリウスが家に立ち寄らなくなったからだ。
泊まる事もなくなったし、突然訪ねてくれる事もなくなった。
仕事が忙しい、というのが理由だったけど、納得出来なかった。
―――夏には会えるよ。
そんな事を言うシリウスは初めてだった。
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