小説天狼星

□Over the ”Night rainbow”
4ページ/9ページ

「幸福に、慣れ過ぎたのよ」

 ポッター家で一番上等の部屋を割り振られる、ハリーの周りは、妹二人の溜(タマ)り場だった。
「シルヴィア、それってつまり、お兄さまが贅沢になったって事?」
 お嬢様風のエスメラルダに、キャリアウーマン風のシルヴィア。
 その年で自分のスタンスを決めている、二人の妹は、ハリーの身近に巣食う宇宙人だ。
 ベッドに転がってそ知らぬふりをしていたら。

「シリウスが慣れ過ぎちゃったのよ!――だって、ひどかったでしょう?
 ………だから、距離を持とうとしてるのよ!きちんとした大人なら、当たり前の事だわ!!」
 聞こえよがしに声を上げるシルヴィアに、眺めている本を投げつけたら、どんなにせいせいするだろう。

 黙って話を聞いていたエスメラルダは、ふと思いついた様に呟いた。
「………でもシルヴィア。きっとそれは無いわ。――お兄さま、今年もシリウスとすごすのでしょう?
 ……パパが言ってたわ。
 ――『ブラックは、バカンスの場所を選ぶために世界を飛び回ってるのか、ハリーとバカンスをすごすため、「見事な風景」を見つけるために、外国を旅行してるのか、分からない』…って。
 シリウスの特別は、お兄さまだけなのよ」

 ポッター家では、なぜか、実の親より、名付け親の方が慕われている。
 ハリーを弁護したエスメラルダも、筋金入りの名付け親っ子。――名付け親馬鹿である。
 将来の夢(スネイプのお嫁さん)のため、日夜、花嫁修業にあけくれている。
 クリスマスには、手編みのセーターに、唐草模様を編み込むのだと、豪語していた。

(スネイプみたいに分かり易かったらいい。
 ――分かり易かったら――……)

 とりあえず、シリウスはハリーに夢中、という事で納得したらしい妹たちは、別の話題で盛り上がっている。

――「そういえば、今年のミス・ウィッチも、シリウスと写真を撮りたがったみたいよ?」

――「"『貴女には、もっと相応しい方がいらっしゃいます』―――九年前から変わらない台詞を、変わらない笑顔で告げるブラック氏"―――日刊予言者新聞の記者は、シリウスを撮りたかっただけよ。――――一面に載ってると、部数が延びそうですもの」


 ハリーは本を放って、白い枕に頬をうずめた。

 昔は一日中、眠る時も食べる時も遊ぶ時も……。
 ずっとシリウスと一緒だったのだ。

 わざと早く眠って、真夜中に目が覚めたら、シリウスの部屋をノックして、ベッドに入れて貰うのは、ハリーの習慣だった事もある。

(きっかけは、母さんだったな………)

 シリウスのお陰で、平均以上の知性と能力を持つ様になったハリーに、ある日、母親は深刻な表情で問うてきた。

 ―――ハリー、貴方、シリウスをどう思ってるの?

 ―――彼みたいになりたい?………彼みたいな大人になりたいの?……ハリー。


 ………質問をよく覚えているのは、それ以来、シリウスが家に立ち寄らなくなったからだ。
 泊まる事もなくなったし、突然訪ねてくれる事もなくなった。
 仕事が忙しい、というのが理由だったけど、納得出来なかった。

 ―――夏には会えるよ。

 そんな事を言うシリウスは初めてだった。


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ