SS

□ONE RAINY DAY
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…あ、降って来ちゃった。



いつの間にか降り出した雨が窓ガラスを激しく叩き付ける音で我に返る。



自室の片付けをしていたらうっかり昔の日記なんて見つけてしまって、思わず手を止めて読み耽ってしまった。



懐かしいなぁ…、聖域に来てすぐに書き出したんだもん。もう二年前か。








肌寒い3月の終わり、ひょんな事から聖域で働くことになった私。まだ仕事なんてロクにしたこともなく、何をどうしていいかも分からずにただただ不安ばかりが大きくて、その重たい心を日記に託して過ごしていた日々。



最初の日記には、不安で押し潰されそうなかつての自分がいた。



最初のページからすぐに、ムウ様のお誕生日のことを綴った日記を見つけた。華やかな御席の手伝いに借り出された日のこと。



そうそう、あの日はこんな風だったわ。日々の仕事の中にも楽しいことがあるんだって、少しずつ解り始めた頃…。



アルデバラン様やサガ様、デスマスク様のお誕生日のことも書いてある。はしゃぎ過ぎて怒られることもあったけど、いろんな黄金聖闘士の方とお会い出来ることが楽しみだったなぁ。



……じゃあ、そろそろX-Dayね。



そう、アイオリアのお誕生日。この日も教皇宮から臨時のお手伝いで獅子宮に遣わされてたんだっけ。



宴席の途中で、酔ったお客様の振り回したグラスの中身を頭から被って、びしょ濡れになってしまった私。



真夏の薄衣は水を被って透けるわ身体に張り付くわ……、大勢の人前でとんでもない状況に私を追い込んでくれた。



周囲の男性陣は助けるどころか、嬉しそうに私を眺めてるだけ。



そんな時、真っ先に駆け寄って助けてくれたのがアイオリアだった。



今でも覚えてる。



「もう大丈夫だ。どこも怪我は無いか?」



頭上から降ってきたのは、白いマントと優しく温かな声。しゃがみ込んだ私を軽々と抱き上げると、アイオリアは好奇の目を向ける群衆から私を連れ出してくれた。



その時、私に向けられた深い翠の宝石は、今まで目にしたことのあるどんなものより煌めいていて。



耐え難いあの状況から助け出してくれた、大きくて力強いあなたそのもののような手の感触さえ、まるで昨日のことのようにはっきりと思い出せる。



きっと、アイオリアは誰がああなっても同じように真っ先に飛び出して助けてあげただろう。それがあなたという人だから。



でも、その時の私にそんなことを考える余裕は全くなかった。



ただひたすらに、あなたに恋せずにいられなかったわ。



あの日から、あなたの姿を遠くに見つけるだけで私の心は溢れる幸福で充たされるようになったんだもの。








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