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□キミのそばで
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クローゼットの片隅で見つけた一冊のアルバムを前に、私は迷っている。アンティークレザーの美しい装丁。意を決して私は立ち上がった。
分厚く重たいそのアルバムを右手に、お気に入りのハーブティーを注いだ大きなマグを左手に、私はソファに身を沈めた。
今朝はアイオリアがいない。二日前から任務で出掛けっぱなし。もう長く一緒にいるのに、ひとりきりの朝に慣れることは、まだない。
家事を済ませて、夕食の下ごしらえをして、ようやく手が空いたのはもう夕方近く。早くしないとアイオリアが帰ってきちゃう。
アルバムの存在に気が付いたのは、ほんの2、3日前。恥ずかしいからあまり見せたくないんだと言って、アイオリアはクローゼットの奥深くにそれをしまい込んでしまった。
なのにさっき、その辺をお掃除していたら簡単に見つけてしまって。
隠されると余計に見たくなってしまうものなんだよね…
少しだけ後ろめたさも感じながら、でもやっぱり好奇心に負けて今に至る私。
ドキドキしながら飴色の表紙を捲ると、最初のページには小さな小さな手型と足型。
その横にはまだ目も開かない赤ちゃんの写真とメッセージカードが。
それは勿論、生まれたばかりのアイオリアと、おそらくはお母様からのメッセージ。
『あなたの誕生をずっと待っていたわ。幸福がいつもあなたと共にありますように。』と、祝福の言葉が添えられていた。
次のページには、キョトンとした顔でおすわりしているあなた。そしてきっと、初めて立ち上がった日の写真。それに、アイオロスさんに抱き上げられて満面の笑顔をカメラに向けているものもある。
くりくりのエメラルドアイズに今よりも少し明るいブロンドの髪。アイオリアったら、かわいい……なんて可愛いの、まるでお人形さんみたい。
本当にあなたなのか疑っちゃうほど小さくて可愛くて、思わず顔が綻んでしまう。
ページを捲るにつれ、少しずつ今のアイオリアの面影が濃くなってきた。海水浴に木登りに……あら、これはミロやカミュかしら。アイオリアに負けないくらい、二人とも可愛いわ。…なんて言ってると、ヤキモチ妬きのあの人が五月蝿いから黙っておかなくちゃ……
そのうちに写真の風景は私にも見慣れたものに変わってきた。きっと、この頃から聖域で修業するようになったのね。アイオロスさんと並ぶ幼い少年は、自分の運命に立ち向かう決意とまだ見ぬ未来への希望に満ち溢れた顔をしている。
ああ、もう今と同じ瞳ね。ただひたすらに前だけを見つめる、光溢れる強い眼差し。
もうこの頃からあの性格だったのかもね…。
そんなことを思いながら次のページを開いた。
でも………あれ?これって、ついこないだのデスマスクさんのお誕生日パーティーの写真…??
うっかりページを飛ばしてしまったかと思って、厚い台紙の角に爪を立てたけれど、そこが捲れる様子はない。
「……??」
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