SS

□流星
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午後、俺は君を連れて海辺に向かった。以前にもよく二人で歩いた思い出の場所。いつも通りに華奢なその手を引こうとすると、君は恥ずかしがって俺と距離を置こうとする。


そして、今の君は俺と二人きりになると、少しだけ会話に困った顔をするようになった。







いつまでも手を繋いで、二人でならどこまででも歩いていけそうなあの優しい日々は、傷付いた世界の中に砕け散ってしまった。


あの日、主を無くした聖衣が聖域に戻ってきたのを見た君は、俺に関わるすべての記憶を残らず手放してしまったから。


それは全部俺への想いの深さゆえにだと解ってるんだ。何もかも、その胸に焼き付いていた筈の俺のすべてを消してしまわなければ生きていけない程、君はその心に耐え難い傷を負ったんだから。そんな君だから、記憶を失ってなお愛おしく思えてしまう。


だから、俺は必ずもう一度、君の心を手に入れてみせる。今、俺の目の前にいる君が、俺を愛した君でないとしても。俺が愛したあの日の君は、もう二度と帰ってこなくても。


……誓ったんだ。
俺を見上げる澄んだ瞳がそこにある限り、俺は君を守り続けると。ましてや、傷付いたその心を俺以外の誰が癒せる?


過去を取り戻せないなら、ここからやり直すだけさ。君と俺ならきっとそう、何度でも恋に落ちるだろう。


流星のように流れて消えたあの日の君に、さようならを告げるよ。そして、小さく輝き出した新しい星を追って、俺はこの夜に漕ぎ出すんだ。






幾千幾万の夜を越えて、俺達はまた愛し合える。


何度も、何度でも、俺は君に恋をするよ―







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