短文編

□Io caddi
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一目惚れではなかった。


古里炎真くん。

私の一つ下の学年で、虐められているのを助けたのが出会いだった。

古里くんは気が弱いのか、よく虐められているのを見かける。
最初こそは助けたけど、私もそんなに度胸がある方じゃない。
大半は見て見ぬフリをしていた。
そして何事も無かったように、古里くんに話掛けるのだ。

こんなにずるい私を彼はいつも受け入れてくれた。
彼はいつもどこか遠い目をしているけど、私といるときは優しい目を向けてくれた。
彼はとても優しい子なのだ。

でも時々思い詰めた顔をしている。
それはきっと古里くんが抱えている闇なんだと思う。
とても悲しそうに辛そうにするもんだから、せめて私といる時ぐらいは忘れてくれればいいのにと思い、私はよく話掛けるようになった。

それは彼に好意を抱いているとかじゃなくて、単純に彼を心配してのことだった。
それがいけなかったのか、暫くすると、古里くんが明らかに好意を抱いているのが分かった。
でも彼は認めたくないとばかりに、興味が無いフリを必死に続けていた。

「どうして、貴方は俺の傍に来るの?」

いつかこんな事を聞かれた。
あぁ、そんなに寂しそうにしないで…ほうっておけなくなる…。

「古里くんが寂しそうだからだよ。」

彼自身は自覚が無いかもしれないけど、その時の古里くんは嬉しそうで、とても安心した顔をしていた。

付かず離れずの時をどれぐらい過ごしただろうか…。

ある日、私はクラスの男子に告白された。
少し気になっていた男子だった。
でも、その時の私の頭の中には古里くんのことしかなかった。
そして、自覚した。

私はいつのまにか古里くんのことが好きになっていたんだ。

告白の返事も曖昧に、私は急いで彼の元に走った。

この気持ちを伝えたら、彼はどう思うだろうか?
喜んでくれるだろうか?
心の底から笑ってくれるだろうか?

そんなことが頭の中にいっぱいになって、私は少し気恥ずかしくなった。
幸せになれると疑わなかった。

「私…古里くんのこと好きになっちゃったみたい。」

静かな廊下に一人佇んでいた、彼に言えば、彼はとても悲しそうな顔になった。

「何言ってるの?俺と付き合えるとでも思ったの?勘違いもいいところだよね。もう・・・話かけてこないで。」

彼の口から出たのは紛れもなく拒絶の言葉。
フラれたという想いより、古里くんが心配になった。
どうしてそんなに辛そうな顔をしているの?
どうして貴方が傷ついてるの?

聞かなくてもなんとなく分かった。
古里くんは私に何かを隠していたのは知っていたから…。
きっとそれは私が考えていることよりも、遥かに深くて、暗い闇なんだろう…。
もしかしたら、これは私を守ろうとしてくれているのかもしれない。
想いは通じ合っていても、私が傍にいては足手まといなんだと直感した。

「そっか…ごめんね。」

貴方を支え続けられなくてごめんね。

涙が溢れそうなのをぐっと我慢する。
これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
古里くんはこれからのためにも私を忘れたほうがいいんだ。
出来る限りの笑顔を浮かべ、背を向けた。


もうこれで、古里くんと会うことはないだろう。


彼にはやるべきことがあるのだから。


私という重荷は捨てたほうがいい。


後ろで古里くんが泣いている気配がして、私はまた涙が溢れた。




Io caddi


(私はいつまでも貴方が好きです)

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