short


□ハローハロー、
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 一度目は偶然。
 二度目は未必の故意。
 三度目は罠を張り。
 四度目には「理由なんかなくても会いに来りゃあ良いだろ」と言われた。
 そして五度目。左手には茶菓子の包み。右手はチャイムを鳴らそうと固まったまま、既に数分が経っている。
 莫迦みたいだと思う。我ながら、おぼこのようだと。初めて訪ねる家ではあるが、会う相手は初めてではない。
 特に家主はと言えば、年端も行かぬ頃からの付き合いで、幾ら数年来会ってなかったとは言え、今更緊張するような仲でもない。
 それでも桂は今、この瞬間間違いなく緊張していた。その証拠に指先はぷるぷると震えていたし、じっとりとかいた汗に髪が首筋に貼り付いている。

(鳴らせ、鳴らしてしまえ)

 内なる自分の声がする。此処まで来て引き返すなど愚の骨頂であるし、手土産も無駄になってしまう。怖じ気づいたと思われるのも癪だし、何より今の状態が居たたまれない。しかしそう思っても手は動かない。

(どうした桂小太郎。
銀時に、おさななじみに会いに来ただけではないか)

 凍てつく冬空の月光を集めたような銀色の髪の、煮出したばかりの染液のように鮮やかな藍の瞳の、彼に会いに来ただけなのだ。自分にそう言い聞かせて、何度目かになる深呼吸を繰り返し、震える指を叱咤する。

(深呼吸で落ち着くなんて言ったのは、何処の何奴だ!?)

 ちっともおさまらない動悸に、古くからの習わしにさえケチを付ける。
 しかし流石にこれ以上は、とこちらも何度目になるか判らない決心を固めて、いよいよとインターホンに指を伸ばす。
 その時だった。

「桂くーん」

 名前を呼ばれた。
 普段ならけしてそんな呼び方をしない。ひどく知った声が呼ぶのは間違いなく自分の名前で、桂は慌てて声の主を振り返る。
 けれど勢い付いた手の動きは止まらず、やけに間の抜けた沈黙の中、指の下から音がする。
 ぴんぽーん

「はーい、万事屋銀ちゃんです」

 何か御用と似合わぬ愛らしい仕草で、ひらひらと手を振るのは誰あろう尋ね人本人だった。瞬間湧き上がった羞恥をどうしようもなく、桂は男の顔に手土産を投げつけた。









続……かない!
かわいい銀桂かわいい銀桂、と思ってたら、桂がひとりで中学生みたいになってしまった

090416



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