妖怪と共に
□第一章
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01:浮 世 絵 町 進 出
安倍露彦は、見た目から見ればごく普通の人間だ。ただ、内面の陰陽師による霊力を比べるとただ者ではない。
能力は天才と呼ばれ、安倍家では次期当主は「安倍露彦」とまで噂されている。
噂にされている張本人は、逆に一風変わったことをしている為、変な奴扱いされることもしばしば。それは、陰陽師が正義と言えば、妖怪は悪と一般的には呼ばれる。
だが、彼はそんなこと気にしなかった。それが変だと言われる発端だというのに。
妖怪達と仲良く暮らしているのが、今の家、一人暮らしのマンションのとある部屋。
──ジリジリジリジリ。
頭の上で鳴り響く目覚まし時計に手探りで音を止めようと探す。
潜り込んだ布団からやっとのことで起き上がり、あくびと背伸びを同時にして、目覚ましを止める。
低血圧の為か、朝の彼はご機嫌斜めだ。
顔を洗うとすっきりして、ようやく朝の準備が始まる。
今現在彼は、一人暮らしをしている。
中学生の一人暮らしは、普通の家庭はしないだろう。でも、露彦にとってはこの一人暮らしには意味がある。
それは、I Love 妖怪!と言うのも心にはあるが、本当は修業の為だ。
今住んでいる浮世絵町は、昔から妖怪が多く修業に丁度最適だからと言うことらしい。でも本当は、
「露彦、しばらく浮世絵町に行って修業してきなさい」
と露彦の爺さんが言った。現役で当主としているのは、霊力が強い為で信用が厚いことからだ。
そんな爺さんが言うことは絶対的な言葉だ。
「はい?」
「出来ないのかね?そうか、弱い弱い」
目の前に居る爺さんは嘲笑うように笑ってくる。
──昔っからだが、やはりこの爺さん嫌いだな。
その挑発に乗る露彦の額にうっすらと血管が浮き上がる。
現当主は、ニヤリと扇で隠した口が歪んだ。
「行ってやりますよ!悪い妖怪全員ぶっ倒して戻って来てやろーじゃねぇか」
──修業?妖怪倒せば終わりだろう。
でかかった言葉を飲み込んで京の町を出た。
あれから数ヶ月たったわけだ。それにしても、逆らえないとはいえ、やはり、わかっていても。
「絶対にあの爺さんに認めさせてやる。俺が強いということも」
思い出しただけで腹がたつ。
お茶を一気に飲んで食器を洗ってから鞄を持って玄関に向かう。
もう一つ理由があることにピタッと足が止まる。本当は爺さんが露彦を助ける為に京から追いやったこと知っているんだ。考えていたことを振り払って、また歩き出す。
すると足音を聞いてか、部屋に隠れていた妖怪達が現れる。
「露彦行ってらっしゃーい」
「おう!」
「露彦初日から遅刻するなよな〜!」
「間に合うから大丈夫だ」
「緊張するんじゃねーぞ」
「わかったわかった。それじゃ、行ってきます」
出てきた妖怪達は、手を振って送り出す。
元々この部屋は空き家で、住み着いていた妖怪達を追い払わずにいる。
──祓うなんて俺には出来ない。いい奴ばかりだからな。
「あれ、猫又どうした?朝早くに会うのは珍しいな」
マンションから出た道に一匹の猫らしき影が通った。
「露彦か。今日は野良猫の集会でぃ」
「なるほど」
「まぁ急いでんだ。じゃーなー!」
「おう!」
返答を聞くと素早く猫又は、走って行った。
猫又は、猫が長生きした妖怪。尻尾は二つに頭は猫。仲良しの妖怪だ。
そして彼は、猫又の姿が消えると、まだ知らない妖怪の大将が居る中学校へ行くのだった。