妖怪と共に

□第四章
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01:賑 や か な 登 校


「一番線に電車が参ります。白線の内側までお下がり下さい」

 通勤時間、アナウンスが聞こえると数分で電車がやって来る。
 学校に行くために満員電車の中、リクオと及川さんと倉田くんと露彦は、狭い人混みを互いに離れないようにそばに固まっていた。
 通勤時間はどうしても電車が混んでしまい、いつもこんな状態なわけだが。
 ──知ってる妖気が…三、いや四か……なぜいるんだ?
 どいつもこいつもよく知っている妖怪達。辺りを見渡せば、バレやすい変装をして周りを取り囲んでいる彼らが居た。
 バレるかバレないか、の微妙なところだった。逆に平然な彼らと違ってこっちの心臓はハラハラしている。
 ──もしかしてカラス天狗が言ってたことが本当になったのか?
 あまり気にせずに生返事で聞いた為に忘れていたが、朝カラス天狗が俺の部屋に来ていた。


「露彦様!リクオ様の補佐官としてお話があります」
「朝からなんだい?」

 露彦の姿を見かけ、すぐに飛んできたカラス天狗。

「リクオ様に護衛をつけさせてもらいます」
「護衛はもう雪女と青田坊が居るだろう。他につける気か」
「はい、幹部の狒々様が何者かに殺され幹部を厳重に警護するようにと思いまして」

 丁寧な言葉遣いに違和感を感じる。補佐官になるまでこんな堅い口調ではなかったはずだ。
 敬語の言葉を発するカラス天狗がよそよそしく、少し悲しかった。

「俺がいるから安心していいよ。あと、口調前と同じでいいからね。じゃっ」


 そう言って退散したもののカラス天狗は安心出来なかったのか。
 露彦に信頼性が全くない気がしてため、息をつく。
 ──部外者は、なかなか溶け込めないってことか。
 新たに四人の護衛をつけるとは厳重すぎではないだろうか。
 ガタンドドドドド

「わっ」
「っと、大丈夫だった?及川さん」
「露彦くんありがとう」

 電車が曲がった時に倒れかけた及川さんの体を後ろにいた露彦が支える。

「及川さんが大丈夫ならこれくらいどおってことないよ、それよりも…」

 リクオの方向を見ると驚いて慌てている様子だった。
 それもそのはず、毛倡妓の胸に揺れた弾みで飛び込み、周りに護衛がいると気づいたからだ。

「二人じゃ足りないってカラスがさ」

 河童が本を読みながら言う。

「なんといってもリクオ様は若頭を襲名された大事なお体ですからね、ついでに露彦様も」
「……ははは」

 爽やかに言って何事もなかったかのように六人体勢のことを話す彼、サングラスをかけた金髪男。
 頭のスイッチが簡単に外れた露彦は、売られた喧嘩をすぐにかってしまう。

「へぇ、ついでか」

 にこやかに笑いつつも、その笑みはどことなく邪悪さをかもしだしている。
 首無(こいつ)は、鴆と同じで、露彦に敵意識が強い。

「そのままの意味ですよ」

 さらりと受け流した首無にも、顔に影が出来ている。

「ほぅ、それが俺に対する態度か」
「外から来たばかりの奴にリクオ様を任せられるはずかい」
「本音が出たな」

 激しい威圧感がある笑みの戦いにリクオは気づかなかった。
つららと毛倡妓が口喧嘩をしてリクオまで巻き込まれたからである。
 それをいいことに首無は、リクオに見られないと本性をあらわした。

「ただの小僧がリクオ様の補佐官など、認めたくないな」
「そうだと思ったよ。首無…君のことは調べてあるよ、強いってことはね。でも、俺には勝てない」
「それは手合わせしたいですね」
「嫌だよ、めんどくさい」

 電車の目的地へ着く合図でこの睨み合いは一時、終わりを迎えた。
 首無の敵意がはっきりしたことだけで、認められるようにするために気力が湧く。
 カラス天狗の配慮には悲しかったが、そうは言っていられない。

「手合わせ楽しみにしてますよ」
「めんどくさいな〜首無くんは」

 興味なさそうな露彦とは裏腹に首無の目は本気だった。
 両者電車から降り立つ最後まで、静かな戦いが幕を上げたようだった。横にいた河童が怯えていたことに誰も気づかぬまま。
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