妖怪と共に
□番外編
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「四国ってここか…」
とある場所を目指して足を運ぶ。山道となっているそこは、まともに一応設備されていた。
四国の妖怪と戦ってから、何週間か経つ。邪魅が仲間に入り、また一段と奴良組は賑やかになった。そんな中で、俺は気にかけていた人物に会いに向かっている最中だ。
リクオとの約束。それを守っているのかも知りたいところだし、ちょっと様子見がてら足を運ぶことになった。
「ここか?」
「おめぇ…間違えてんじゃねぇか?」
「んなわけねーとは思ってる」
猫又が呆れたように見てくるが、道に迷っても元の道を引き返すぐらいしかできない。
「ぬらりひょんが言った目印わけわかんねぇ…」
来るに辺り、ぬらりひょんに道を示した地図を描いてもらった。行けばわかると言っていたが、実際来てわかったのは、行ってもわからない…だ。
道ではない道を進みだした俺に慌てたように猫又も着いてくる。
猫又は、来てみたいという興味で今日は付き合ってもらっている。旅は引きずって連れてくるもの。いやいや渋い顔をした猫一匹連れてくるのは、造作無い。
森を抜けると川、川を辿って歩けば街が見えてきてしまった。
「……これは普通に電車使えば良かったんじゃねぇか?」
「だろうな」
猫又の言ったことに肩を落とす。
「とはいえ、来てしまったんだ。しょうがないな…玉章どこだよ」
途方もない捜索にため息を吐き捨てた。
しばらくして、場所を照らし合わせながら学校を通りかかる。地図と睨めっこをしていると、誰かに引っ張られた。
何だと思って振り向くと凄く睨みつけてくる、玉章がそこにいた。
「お、いたいた」
「君は僕が声をかけて何度目だと思っているんだ。いいかい、三度は言った」
「……え。玉章が俺のために三度も言ったのか?」
「全く、君は本当に耳はあるのかい?」
ぶっきらぼうにも呼び止めてくれたことに感謝する。
玉章の制服姿を久しぶりに見てあの頃を思い出す。初めて会ったあの時。
「何しに来たのかはわからないけど、こっちに来てもらうよ」
「は…?」
「その様子だと気づいていないみたいだね。とにかく来い」
玉章にとっては驚く人物だった。こんな場所にいるはずもない露彦が、地図を見ながら歩いていた。それも足元には猫が付き添って歩くために、人間たちが振り向いて見られていることに気づいてもいなかった。
一度目はどうしているのか確かめたくて名を呼んだ。反応が全くない露彦を三度呼んでも気づかない彼に苛立った玉章は、最後は服を引っ張って止めることに成功した。
すたすたと前を歩いていくのを見ていたが、玉章の指示に従っておこうと歩き出す。
顔の傷は痛々しくも残ったままだ。記憶の中で戦いのことを思い出しては懐かしむ。
「玉章に会うのはあの戦い以来だな…お前、すぐにいなくなるから」
「君が寝ていたから気づかなかっただけのことだよ」
三日間は寝込んでいた。体力的にも血の関係的にも、倒れてしまっていたことを知っているようだった。
「そうだけどさ。人間らしく学校とか行ってるとか知らなかった」
「ふん、当たり前のことぐらいは最低限しているつもりだよ。そもそも、どうして君はその姿なんだい?」
現在の露彦は、妖怪の時の姿だ。
「……はは」
「見たところ封印がゆるんできている」
「お前が戦いに来た時も結構むちゃやったからな」
そのせいでまた封印がゆるんでいた。やはり、自分が封印した程度では駄目だ。
「自業自得だね」
「まぁ仕方ないよな。玉章はあれからどうなんだ」
「どうって?」
「大将としてやっているのかって意味だ」
背丈が小さいな、と思いながら玉章を見る。
「まぁ、まぁってところかな」
「…お前の言い方は何か含みがあってわかったもんじゃないな」
しばらく歩いていれば、彼が暮らしている家へと辿り着いた。
「あ、やっぱり来たことある」
記憶の片隅にある。母さんが友達だから、ちょっとからかいに行ってやろうと出かけた場所だ。ここであってる。
玉章に続いて俺も入っていくが、小さな狸にこそこそと見られて懐かしむ。確か、昔もああやって見られた。廊下を歩いていると、どこからか犬がやって来て玉章に近づく。あ、と声を上げた時にはすでに玉章の腕の中にいた。
興味深く見てると玉章が、嫌そうな目でこちらを見てきた。
「拾ってやった時からよく来るんだ」
「随分懐いているな……玉章が」
「なんて言ったんだい」
「いや?なんだっけ」
軽く笑うと犬が吠えた。どうやら敵視されたらしい。
──この犬言葉わかるのか?
「で、今日はどういった事情で来たのかな」
「普通に気になった。それだけじゃ駄目かなぁ」
「納得はいかないね。君は一度こちら側を裏切っているには変わりないんだ」
「確かにそうか。玉章、謝らせてくれ」
すっと表情を引き締めた露彦は、玉章を見据えた。
「あの時は裏切ってすまなかった」
馬鹿正直に謝る露彦を凝視する。頭を下げるその姿に玉章は、次第に笑いが込み上げてしまう。
俺は、零れる笑いに玉章がまともに笑っていると感じた。戦いの中では、策士のやり取り。そんな中だった二人が今こうして過ごしているのもおかしなことだ。
「そんなに素直とはね」
「これくらい普通だっての。それより、お前は幹部たちの墓を建てたのか」
「建てたよ。見晴らしのいい場所に」
ふっと笑みが消えて思い出すように話す。
「僕がしたことは消せないけど、それでも償いになるならね」
「…そこまで心の変化があるとは思わなかったぜ。変わるもんだな」
「君の方こそ、敵意がないと変わるようだ」
敵としか今まで見ていなかった関係だ。お互い、心を許し切れてはいないだろう。
猫又がごろりと寝そべる。その横に俺も腰を据わらせた。犬が猫又に興味があるらしく、玉章の腕から逃げると猫又の耳を触り出す。一般的な犬と違ってあまり吠えない。
「まぁ…な。俺はどうして血の事を知っているのかが気になったんだが、教えてくれるか?」
「本当の目的はそれかい?」