妖怪と共に

□番外編
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「寒いよな…この時期…」

 ぽつりと呟いて眠気をこする。
 猫又と言えば街の猫で集まりがあるとか言って夜になって出ていった。

「やべっ…薄着してたら風邪引きそうだ」

 ──風だったらいつでも吹いてるが?

「黙れ風狸。それと風をわざわざ俺のところに吹かすな」

 ──ざまぁ

「うっせ!」

 からかっていただけであって、風狸はすぐさま風に紛れた。
 身軽なもんだ。あいつは、風の中で生きてるようなものだし、当り前ではあるが。

「っくしゅん!!」
「露彦様かわいいくしゃみありがとうございます」
「だれもお前の為にやったとは思ってねーからな」
「幸せ(はーと)」
「……」

 気持ち悪さを感じた露彦は、空狐の前から姿を消した。
 これでも妖力があるほうだ。空狐のように瞬間移動は出来るのだが、今度は違う廊下に出た。
 すると首無が温かそうな服装で歩いてくる。
 いつも通りなのに、羨ましいような気がしてならない。

「露彦、こんなところでつっ立ててどうした、邪魔だ」
「空狐から逃げてきたところだ、邪魔じゃねーよ。通れるだろ」
「ああ…そういうことか。今のお前は妖怪で幅があって通れない」
「寒いからそのマフラーくれ」
「俺の話を聞け!!それとマフラーはやらん!」

 料理の膳を下げている最中だったのか、阻まれて若干不機嫌だ。
 だが、俺はそれを気にしていない。

「マフラー…」
「あげるわけがないだろ。いいからそこをどけ」

 じーっと見ているとさすがに困った首無が唸り始めた。しかも、皿をたくさん膳に乗せているので動くに動けない。
 俺が少し近づいても後ろに一歩下がるぐらいしか出来なくて困っている。
 今ならこのマフラーをひっぱていくこともできるかもしれない。ニタァと笑った露彦に首無の表情はひきつった。

「なぁ、そのマフラー貸して。貸してくれると嬉しいな。俺、マフラー持ってないから」
「それくら空狐に頼めばいいだろう」
「頼んだら愛情込めすぎた物が完成して気持ち悪くなった」
「お前、その言葉を彼女に言ったのか」
「言うわけないだろ?愛情込めすぎて着るに着れないといったさ」
「嫌な奴だ」

 こうやって裏表関係なく、互いに素直に話せているのは二人とも気づいているのか。
 自然となってしまっているからこそわからないかもしれない。

「首無…だめか?」
「貸すわけないだろ。寒い時期に」
「ずず…」
「お前風邪ひいいてるのか」
「んーめったに風邪ひかない子のはずだが…風邪か?」

 仕方なしに首無は廊下に膳を置いて、背の高い露彦の額を触った。
 首無いわく、子供の時の身長がさらに伸びてむかつく、らしい。
 露彦は、首無を見下ろせて楽しいです。とコメントしている。その時も二人は喧嘩したものである。

「……熱い」
「近いぞ首無」

 額を軽くぺしっと叩かれ、眉が上がる。
 ──こいつ…やっぱり嫌いだ。

「お前…叩くなよ…」
「どうやら、本当に熱はあるみたいだから、しばらくは安静にしてるんだな」
「嫌だ…とてもつまらない」
「寝てろ」

 殺気だって言う首無は凄く不機嫌だ。
 不機嫌でない首無を見たら、逆にその日は雨になるべきだ。

「弱ってるお前と戦えば楽勝だろうな」
「よくいう、俺には敵いっこないよ」
「やめんか、おめぇら!」

 今にも戦いだしそうなところで割って入って来たのは猫又だった。
 酒瓶を抱えてゆったりと歩いて来ていた。それに気づいてなかった露彦は、眠たそうに目をこする。
 首無は感じ取っていた匂いにようやく気付いた。

「露彦、お前酒飲んでるだろ」
「……まぁまぁだ」
「おめぇこれでも飲め」

 猫又にひょいと渡された酒を飲むと素直に飲むとくらくら頭がしてきた。

「はぁ…ほらこれでもして少しは温かくしろ」

 差し出されたマフラーを素直に受け取ってくるくると首元に巻く。それでも身震いがしてしまい、くしゃみをする。
 目眩もしてしまう体を止めることなく、その場に倒れた。

「露彦どうした!」
「ようやく効いたか」
「どういうことだ猫又」

 倒れた露彦は熱でやはりうなされている。
 それに追加された項目が酔いだ。
(この酔っ払いは廊下で寝転がってさっきよりも邪魔じゃないか!)

「強い酒を飲ませて寝かせたまでだ。あとは頼むぜ!こっちはまだ飲み足りてねぇんでね」
「逃げるな!!」

 そう言った時には、すでに軽々と屋敷の外へと飛び出して行った。
 取り残された首無はため息を吐きながらも露彦をゆすった。
 頭を押さえながらも呻く露彦は動けなくなっていた。

「だるい…」
「お前はいつも会うと廊下で寝てるな」
「これは不意討ちだ…決してだな」
「それ以上言うな、風邪をひく前に部屋に入れ」
「あぁ…それもそうだな…」

 首無との言いあいはいつもなら続くが、今日はこの辺で終わりだ。
 無理やり体を起して廊下の壁に寄り掛かる。
 膳を再び持った首無はいつもよりはわりと柔らかい物言いだった。

「そこで大人しく待ってろよ」
「……どんな風の吹きまわしだ?」
「そこにいたら他の者の邪魔になるからな、空狐を呼んでくる」

 言い捨ててさっさと歩いて行ってしまう彼に小さく言った。

「マフラーありがとな」

 呟いた声が聞こえていた首無は静かに苦笑しては膳を運んだ。
 

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