妖怪と共に

□番外編
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 夜の暗闇は何を見るにも真っ暗だ。それだと言うのにこのたまに出会う男は、真っ暗な服を着ている。

「こんな夜に散歩か?」
「パトロールだ」
「それは大変だねぇ…竜二がここを通るようになって、たまに見に来たけど相変わらずそう怖い顔をする」
「お前はちゃらんぽらんだ」

 俺よりも小さい背。一般からすればただちょっと怖い顔している、とっくきにくい男。

「そうかな」
「そうだ」

 高校生となった俺に愛想一つない。
 今となっては慣れていることだが、年上として見られていないらしい。
 ずっと昔から関わっていることもあって話も出来る。でも、どうも竜二はわかりにくい人だ。

「中学生で友達はいるか?そんなに怖い顔をしていると逃げられるぞ」
「お前に言われたかねぇよ。お前こそ人間拒絶は解除できたのか」
「昔よりは緩和された方だと思ってる」
「どうだろうな」
「竜二、疑うなよ?これでも高校生にもなってぼっちですなんて言えるか」

 妖怪の血が封印されて少しは、近づくようになった人間。
 気配もわからないというのに怖気づいてしまう環境はなくなった。

「それもこれも封印が成せて、しっかりと生きれるからだ」
「……封印の方はどうなんだ」
「緩んでいない。今のところは」
「あれから年月が経っている。封印が薄れてきてもおかしくはないだろう」
「心配性だね。確認はしてるから大丈夫だよ。俺は封印の場所を知らないけど」
「そうだろうな」

 誰よりも話しやすい。
 ただの友達とは違う。こうやって知っていると知っていないかで気楽さが違う。
 暴れ妖怪になってしまっても、こいつは普通に滅してくれるだろうという安心感がある。
 敵意を抱かせるように話す。関わり深くないようにからかう。

「竜二は封印の場所教わってないんだろう?まだまただな。強い陰陽師だと判断されてないんだ」

 いちいち勘に触るような言葉だって言う。

「うるせーよ。お前なんかに言われなくても努力してやるさ」
「頑張れよ竜二くん」
「黙れ、露彦。一週間後に勝負だ」
「いつでもうけてたとう」

 成長していく。最初は俺の方が強かった。それがだんだんと成長していく。

「楽しみだな〜竜二との対決は久しぶりだ。言っておくがゆらは連れてくるなよ?俺はあいつにこの姿をばらしてない」

 妖怪姿の彼。5歳から才能を見抜いていた少年は、羽衣狐の力に翻弄されている少年と会った。妖怪に生まれて悲しくなっている少年を笑うのではなく、助けようと思った。それでも、才能がなかった。力がなかった。
 それから何年もの月日が経つ。
 今やただどうでもいい会話をしてたまに手合わせをする。

「わかってる。そうだな、負けた時には語り聞かせるのもいいかもしれねぇな」
「おい、竜二…お前楽しそうに笑ってるが、それはゆらにか?」
「さてな」

 意地悪そうに笑う竜二。

「……絶対にそうだろ。嘘でもそんなことはやめてくれ。妖怪を絶対の悪だと思ってるあいつが動揺して修業に才能に影響が出ても困る」

 悪い奴かと思えば、人を思いやる言葉を出す。自分のことを知れると自分を怖がるというのも真っ先にあるはずなのに、こいつは、いつもこれだ。

「ま、竜二が勝てるわけねぇか…」
「言ったな…」
「悪ガキがどこまで出来るか腕試しでもしてやるよ」

 上から目線で見てやれば、眉がぴくりと動いて俺を睨みつける。
 絶対に怒ったなぁと思っても軽く笑ってひらりと場を後にする。

「じゃあな、ここで別れる。家はあっちだしな」
「っは、負けた顔を楽しみにしてるぜ」
「はいはい」

 竜二が歩き出したのを感じて足を止める。
 向かう方向は月がある明るい世界。俺は暗い世界。

「妖怪は悪、そうだろう竜二」

 だから、俺が暴走してしまった時には殺してくれる。感情がそうさせなくなった時には、俺が全てを消そう。
 そうすれば君は妖怪は悪だと言って、全部終わりにしてくれるだろうな。
 小さい背、それが頼もしく見えるのは──見間違えだろう。
 

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