妖怪と共に
□番外編
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竜二と修業をすることになったある日のこと。花開院家に行き、修業を見てやることになった。とはいえ、竜二の腕もそこそこ上達している。今の俺に言う事があるのかわからねぇ。
俺は、赤い扇を閉じたり開いたりしながら修業に付き合っていた。竜二が山の中で修業する姿を見ている。水を操るその様は見ていて綺麗なほどだ。
「腕は…上がったよな…」
ぽつりと呟いた言葉は竜二には届かない。滝が流れる水の音によって消されている。
「おい、露彦!そこでぼーとしてんじゃねぇ。お前も術の練習ぐらいしてろ!」
大声で言ってくる竜二は、眉間にしわ寄せて睨んでいるようだ。
「竜二、お前の術はもう少し自然と攻撃出来るようにしろ」
「どういうことだ」
大きな石に腰かけていたところから離れ、竜二の側に行く。
「術に時間がかかるとこちらも危ない。その言言、もう少し早く出せるようにしろ。その方が身のためだ」
「それくらいわかってんだよ」
「それならいいんだけどな──舞え、蝶武剣」
発した直後に舞う様は鮮やかで美しい。一瞬竜二も見惚れたが、すぐに目を逸らす。
くすっと笑った露彦はそのまま水を操ることをやってのけた。蝶たちが舞うように、水を玉状に浮かばせて見せる。
それでも俺ですら、水を自在に操る能力には欠けているために維持することは出来なかった。
「やはりなぁ〜花開院家はどうしてか水系の術が得意とされている。俺は火の方が楽だ」
「俺とお前じゃ、相性が悪いな…もっとも、関わりたくもねぇが」
「しょうがないだろ。修業を見てやれってのは、断ったら依頼として花開院家が出したからだ」
「ったく、あの爺も嫌なことしやがる」
「全くだ」
妙に気が合ったが、竜二が再び術の修業を開始したことで互いに離れる。
術おいて長けている露彦が師として招かれることはよくあることだった。陰陽師同志の結束にもつながる。そういう意味で、今回は竜二と授業することになったが…互いに嫌だった。
──術は安定してきたか。これなら使い物になりそうだ。
嫌だ、とは思いながらも術に置いては真剣そのものだった。扱い方を間違えれば、自分の身に帰ってくる。そういうことを注意するのも役目の生業だ。
「……妖気」
周りで何か蠢く何かが近づいて来る。
「結構数が多いな…」
ざっと10匹というところか。集団で行動している群れのような気がした。
「竜二、わかってるか」
「どうやら囲まれてるみてぇだな」
「そうらしい。むさぼり喰いに来たのか…なんだかは知らないが」
術を消した竜二と向き合った瞬間、ことが起きた。
三匹の狼が手足の青い焔をまといながら突撃して来る。とっさに蝶たちが舞い、掴みかかろうとするが振り切ってこっちに来たところに竜二の術で喰らい尽くす。
同時に次は二手から竜二と俺を狙った狼が飛び出してくる。
「炎に包まれてろよ」
放った蝶が狼に縛りかかると燃え出し、身を焼きつくそうとしだす。
竜二の方を見た時、一匹の狼が上から飛び出し、口から炎を噴き出したのがわかった。
「竜二っ!!」
「っく…」
目の前の狼に気を取られ、俊足の狼に気づくことに遅れを取った。
ぐらり、と傾いた体が足場が崩れていた場所だったことに竜二は、大きく目を見開く。
「どけっ!!」
刀に変えた露彦が遅いかかる狼を薙ぎ払って進むが、来るのが遅かった。
「くそが……!」
滝壺に落下していく竜二に続いて、俺は身を投げ込んだ。
「妖怪になることぐらい、今日は許せよ」
◇◆◇
(体がいてぇ……なんだこの状況は)
月の明かりが視野を明るくする。竜二が起きるとそこは、ふわふわの毛並みをした狐の上で寝ころんでいた。
「……お前、もしかしなくても露彦か」
「起きるのが遅い」
ゆったりと起き上がった竜二に続いて、腹で寝かせていた狐すがたの露彦は立ち上がり、変化ですぐに元に戻る。
「とんだ誤算だ。ほら、焚火の近くで温まれ」
どこかほっとした露彦の表情に言葉がつまる。心配してくれていたのだろう。
竜二もさすがに何も言わずに焚火の側に寄った。
「まだ寒いか?」
「少しぐれぇだ。それよりお前の方こそ…」
言おうとした言葉を遮るように頭に被せられる赤い羽織。
「それは乾いたところだ。少しはましだろうから、使っていろ…さてと、この山から下るにもな」
ぶつぶつと独り言を言い出し、考えている奴は札を蝶にして羽ばたかせる。何かと呼び寄せる使役している妖怪でもないようだ。
「竜二が妖怪嫌いっての知ってるからね。今回は特別に連れてこなかったんだ」
視線に気づいた露彦が何気なく言う。
ちょっとした気遣いに調子が狂うのを感じて嫌になる。
「気にすることじゃねーだろうが」
「気にするよ。それなりにね。方相氏を呼び寄せたから、彼が来たら帰ることにしようか。それまではここで待機な」
「あぁ」
隣に座る露彦に礼を言いたくても言い出せない、竜二はむすっとした表情になっているのも気づかずに炎を見つめていた。
そんな竜二を見て、笑いをこらえている露彦だった。