妖怪と共に

□第九章
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01:少 年 攫 い ま す


 ──夜の逢魔が時、京都。
 妖怪が我が物顔で歩き回る時間。静かに彼は街を見渡した。
 竜巻が登り上がった黒い渦に眉間に皺を入れる。
 前回来た時より、随分と荒れ果てた街になっていたこの見慣れた風景。
 人々が歩く姿に影で妖怪が歩く姿。どちらが正しいのかの答えは両方だ。どちらも…

「同じ世界で構成されているからな!」

 その顔は、悪人のように笑い、隣に居る風狸(ふうり)を見上げる。
 座っている露彦の分身は笑みを絶やさずに言う。

「さーて、好きなようにしていいと言われたが、どうするかなあ」
「自由に…やれ」
「話すのは得意ではないというのは本当なのか。大変だなお前」

 ──うるさい、黙れ。このポンコツメガネ。

「ありゃ怒られた。このメガネないと遠く見えないからしかたないね」

 頭に響く声にさほど驚きはしない。知っていたが、逆に面白いと思った。
 疲労感出ている風狸にこれ以上何か言っても無意味だろう。それに、怒らしてしまうとここから降りられなくなる。
 外部から勝手に近づき、屋上に座っているのだから。人に気づかずにするには風が必要だ。

 腰を上げた露彦は行く場所を決める。
 街の中で群れる喧騒の音に溜息と共に笑みに変わる。
 妖怪姿しか形をとれない彼には、騒ぐのかもしれない。妖怪は戦いが大好きだ。

「あそこに行ってくれ、風狸」

 指差した場所を確認した風狸は頷く。
 突風となった風が二人を包み込み、妖怪達が集まる場所へと向かう。
 ──動きだした羽衣狐を拝みにいこうじゃないか。どんな歓迎をしてくれるかな。

「あ、忘れてた」
「何だ」
「あいつを攫って行こう。ほら、あそこだ。相変わらず逃げてんだな」

 記憶も断片的に受け継がれている式神は、少年を最初に見た映像を思い出していた。
 そしてその少年を見つけ、成長ぶりに苦笑いした。
 全く変わっていないようで、霊力が徐々に高くなっている姿を。



 花開院によって400年もの間封印してきた第二の封印、相剋寺。
 花開院の福寿流によって、厳重なる結界が行われていた。だが、それは操られた秋房によって破られる事となる。
 陰陽師と妖怪が真っ向からの戦いが幕を開けたのである。

「我が子はどこじゃ。このような所に居るような気がするのじゃ」



 相剋寺上空。
 三人の姿が空へと浮かぶ異様な光景。
 露彦は蝶武剣を発動させ、やや上機嫌であり、風狸はめんどくさそうに見下ろし、少年は青ざめていた。

「あの竜二が秋房に負けるわけがないと思うが…ちょっとだけ心配」
「何呑気なこと言ってるんですか露彦さん!突然現れて連れ去らてこの誘拐者!」
「光高は信頼出来るから連れて来た」
「うっ…嬉しいような…また遊ばれてるような…」
「素直に喜べ!」

 光高は安倍家に居候している陰陽師生徒である一人だ。
 ひ弱そうな行動とは違い、少年には強い言霊を使う能力があり、修業中の身である。
 露彦が信頼するのも嘘をつかないことがかわれている。そうそう居ない優しい奴だ。

 普通に会話している二人だが、ここは戦いの場。周りにいる妖怪を気にせずに話す彼らは少しおかしい。
 蝶武剣で滅せられ、光高の言霊によって造られた結界が二人を護っていた。

「っ…なんだ…今寒気がしたような…」

 ぞっとする体を抱きしめる。全身が危機を感じた。

「大丈夫ですか?夜になって風が寒かったんでしょう」
「そうだといいが」

 ──嫌な予感でなければそれでいい。
 主体ではないから大丈夫だと心に強く言い聞かせる。
 体抱きしめていた手を離し、地上を再び見ると危険な人物が目に飛び込んできた。
 黒髪の長い髪にあの尻尾。間違えることがない。

「!!ゆらちゃんが新しい式神出しましたよ!」
「まずいな。行くぞ!!」
「はい!!」

 言い争っていた二人は互いに顔を見合わせ、風狸によって勢いよく地面を揺らした。
 風の竜巻は荒々しくその場にいた者達の手を止めさせることになる。
 状況を変えるにはうってつけだったわけだ。
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