妖怪と共に

□番外編
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オリキャラオンリー(ほのぼのシリアス)
※日記に上げていたもの
台詞だけだったものに、少し付け足しました。
空狐が生きていたら、と感じていてください。番外編に上げるとは思っていませんでした。ブログだといつ消去するかわからないので移転。


 ◆


 夜に行う宴の祭り。酔った露彦はというと、まだまだ京に残る残党妖怪を退治しに行こうと駆け出す。

「てめぇらいくぜ!」
「おめぇは相変わらず元気だな…」
「猫又も俺に続けよな!!」
「へいへい」

 猫又は疲れた顔をして、酒を飲みほした。

「露彦さん待って下さいよ!そんなに慌てるとこけますよ」
「それはお前だろ…」
「そ、そんなことありまっ…!!いったたた…本当にフラグってものがこの世にありすぎます」

 弟子である光高もこの安倍家の宴に招かれていた。
 とはいえ、家の中でも庭は暗い。何もない廊下で滑るのは、さすが光高としかいいようがない。

「光高だけだと思うが。まぁいい、さっさと行くぞ」
「ちょっと待って下さいよ!!こんな暗闇に置いて行くなんてことしないでください!」
「チチチッ!」

 その肩に乗った緑の小鳥も元気に飛んでは、主である光高の怪我を心配そうに唸る。
 つつかれそうになった露彦は逃げるように走る。
 駆けっこが始まった者たちを見ながら、金色の目をした妖怪は酒を飲む。その隣には、長い髪を頭の上でひとまとめにした女性が彼の杯を満たす。

「元気がいいですね。さすが露彦さんです♪」
「夢路(ゆろ)様、このような輩にいつまでついているおつもりですか」
「いいじゃありませんか。とても楽しいと思いませんか天月(あまつき)」
「…確かにそうかもしれませんが、騒々しいと感じます」
「気持ちに素直ですね、天月は。私はこんなに騒がしい場所は嫌いじゃないんですよ。むしろ、静かよりはこっちのほうが飽きません」

 そう言って、男は微笑んだ。
 光高の式神である二人。ここから抜け出すことなど、先の先。故郷に帰ることを半ばあきらめた天月は、静かに彼らを見やるのだった。

「露彦様!ああ…そうやって乱暴に髪を縛ろうとしないでください」
「くっそ…あの小鳥が髪をひっぱりやがって…」

 三つ編みに縛った露彦の髪は、縛った紐をとられてだらりと髪が放置されている。

「じゃあ、いつも通り頼む空狐」
「わかっております。まだまだ子供ですね、露彦様は」
「空狐に言われると反論はできないな……」
「ふふ、まだまだじゃのぅ」

 何故か塀の上から現れた母親を嫌そうに見る。

「母さんがなんでこんなところにいるんだよ。父さんと仕事じゃなかったのか?」

 父さんと仕事だと知っていたから、宴に呼んでいなかったのだ。

「仕事が終わって戻って来たところでなぁ。そしたら、騒がしい声が聞えて来てしまったからのぅ」
「そしたら、母さんがいきなり行きたいと申したので来てやったんだ。ありがたく思え露彦」
「(その上から目線なんだよ…父さん)そーですか。今宵は宴をやっているところです。楽しんでいってください」

 父は普通に縁側からやって来る。
 言うが早い、母さんは、酒だとすでに手に持っては飲んでいた。

「既に飲んでおるぞ。さぁ、酒をどうぞ」
「ありがとう……妖怪と人間がいるとは奇妙な光景だ」

 縁側で飲みあう親に、露彦は苦笑した。

「父さんと母さんが結ばれたことが奇妙だと俺は思うけどな」

 今も尚、愛し合っているのがわかる二人。
 この二人が結ばれたのも不思議なものだった。二大勢力の一人、天狐。偉大な彼女が、何故この父に寄りそったのか。それと、この父もまた、何故母に寄りそったのか。

「ぽっぽ〜!風が風が凄いでありますよ〜!」
「いいないいな!わいも空飛びたい!」
「…次にやって、やる」
「風狸はすごいなぁ〜!高いでー!」
「貂、暴れるな…(──風が操りにくい)」

 月を見上げていると、鳩隊長や貂(てん)が楽しそうに空を飛んでいる。
 意外と面倒見がよい風狸を見ては、くすりと笑う。

「露彦様がここまで成長されたとは」
「何を泣いている!方相氏は涙もろいとは思わなかったですぞ」
「鳩隊長殿か…この方相氏、露彦様に仕えて良かったと思っている。本当に成長なされた」

 隅の方でしくしくと、一人酒を片手に呑んでいた彼は、大げさだ。

「方相氏よ、聞えておるぞ。こっちに来て酒を酌み交わそうではないか!我が子の話でもしながらな!」
「ははっ!!天狐様」

 天狐に仕えて何百年。彼はずっとこの天狐族に仕え続けている。側近中の側近だ。
 不思議な巡り合わせによって集まった者達。
 今があるからこの俺たちがいる。引き継がれていく物語、過去、今、未来。まだまだ始まったばかりだと俺は思っているけれど…案外、長い物語(人生)になっているのだろうか。

「全く、この家は騒がしいな」

 薄く微笑んで、空狐が酌んだ酒を飲む。
 ──こいつらと一緒にいられることが、何よりも幸せだな。

「そうやって笑えていられるのもこの家だからじゃないですか」

 弟子である光高が、汚れを払って近づいてくる。

「その通りだ。光高も慣れたか?」
「慣れますよ。さすがにこれだけ妖怪がいれば…でも、この人たちだけですけど」
「妖怪と人間が暮らせる理想は高いにしろ。こうやって妖怪を好きになってもらえるのは嬉しいものだな」
「良い妖怪と悪い妖怪がいるってことは、僕も初めて知りました。それに、この生活は楽しいです。こうやって話せて、今まで幸せだと思っています」

 光高もまた、暮らしている中で様々な物達と関わった。
 人間であっても、妖怪であっても、何一つ変わらないものは心だ。心は必ず認め合う。

「……俺もだ」
「露彦さんもですか?」
「あぁ、いろいろなことがあったが、それでも…今、生きていることに感謝してる」
「僕もです。死んでいたら、みなさんにも会えませんでした」

 互いに死にかけた経験があり、あの時を乗り越えたからと二人は思うのだった。

「永遠に人はいることが出来ないが、こうやってたまには楽しむ事でもしよう」

 いずれ、父も、ここにいる光高も、消えてなくなってしまうのだろう。
 妖怪も不死ではない。首や心臓をとられればお終いだ。
 だから、この大切な時間を出来るだけ多くつくろう。長く楽しめるように。記憶はいつまでも色あせることなくあるのだから。

「はい!今度はデザートでも持ってきますよ!いきなり宴だと言いだすので何も用意してませんでした」
「お!?光高のデザートか。俺も楽しみになっちまうぜ」
「猫又はなんでも食べるからな」
「なんだとぉ!?おめぇさんよりは、食というものに興味があってだな…」
「顔真っ赤じゃねぇか猫又…酔っぱらっていやがる…」
「お酒ほどほどにしてくださいよー!」

 猫又に軽く笑ってでこぴんをする。すると、ばたんと倒れてそのままぐーすかと寝るではないか。
 本当に酒に呑まれたな。

「露彦も呑むか」

 いつも通り、不敵な笑みの父さんは息子である露彦に酒をすすめた。

「たまには…父さんと呑むのもいいね」
「親子揃ってとは、なんじゃ久しぶりで泣けてくるのぅ」

 天狐はその姿を見て、思わずにはいられない。
(ああ、長く長くこの者たちといられればと──)

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