妖怪と共に

□番外編
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 一階にある廊下を進むと保健室に到着する。
 ドアの前に立つ家長さんは、緊張しているのか肩に力が入っていた。

「家長さんは無理しなくていいよ」

 今の家長さんに無理は禁物だ。そっと肩に手をのせて言うと小さく頷いてくれた。
 変わりに露彦がドアを開ける。室内には、何にも異変はなく、見渡す限り不穏な妖気すら感じられない。
 安全を確認してから、家長さんを室内に入れ、体温計を差し出す。

「心配しなくても良かったみたいだね、この様子だと」
「そうなの?」
「ああ」

 妖怪の気は感じないが、違う気は微量ながら感じることは黙っておこう。

「熱はどう?」
「37.8…みたい」
「微熱かな。もう少し早く気づくべきだったごめんね」
「そんなっ謝らないで!ここまで着いて来てくれて安心したの。ありがとう」
「そう言ってもらえるなら良かった。じゃ、ベッドで横になっていて、保健室の先生いないみたいだから呼んでくるよ」
「うん」

 家長さんを一人置いていくのも心配だったが、熱を早く見てもらいたい一心に保健室を出た。
 駆け足で廊下を走っていると突然生ぬるい風が吹き抜ける。
 ――なんだ、この空気
 当たりを見渡すが妖怪の気配は全くしない。ただ、窓から見える空が暗くなり始めていた。
 まるで、雨が降る前の前兆のように。
 階段を上がろうとしたその時、嫌な予感は背筋を駆ける。

「キァアアアア!!」
「家長さんの声!?」

 廊下にまで響く声は、さっきまで離していた家長さんのもの。
 瞬時に向きをかえ、すぐさま保健室へ全速力で向かう。
 ――失敗した。式紙を一人でも置いておけば良かった。気配が無かったから安心した俺が馬鹿だった!!
 乱暴にドアを開け、家長さんのベッドに駆けつける。

「家長さん!」
「嫌ぁ!!」
「わあぁぁあ!!」
「えっ?……グッ」

 しきりになったカーテンを開けると同時に何かが飛んできて額に激突する。
 勢いで尻餅をつくが、痛さに構ってられずに飛んできて奴を見ると、手のひらに乗るような小さなてるてるぼうずだった。
 頭は丸く白い布をひらひらとなびかせ、手足は人間のもの。
 人間の子供がてるてるぼうずをかぶった形をしていた。

「露彦君その顔がっ…!」
「顔?」

 指刺されてるてるぼうずは、倒れて頭を打ったのか伸びている。

「こいつが?」
「うんうん」

 つまみあげたてるてるぼうずの顔を真正面から見ると黒ずんだ不気味な表情があった。
 あまりの酷さに唖然となると急に可笑しさが膨らんで、声を出して笑ってしまう。

「ぷっ、あはははは」
「ちょっと露彦君。笑い事じゃないよ…それってもしかして、妖怪なんでしょ?」
「あはは、違う違う神様だよ」
「ええ!?」
「失礼な人間だな!ぼくは人々から信仰されている神だというのに」

 いつの間にか起きた彼は足、ばたつかせて怒っているが、露彦につままれているせいか可愛く見えカナも笑い出す。
 二人に笑われて恥ずかしさ紛れに怒り出したてるてるぼうず。
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