妖怪と共に

□第三章
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02:出 遅 れ た 主 役


 彼は今、額に汗をかき、一晩泊まる荷物を持ち大きく深呼吸をしていた。
 携帯のメールと着信履歴が物語っている出遅れた知らせ、彼には十分すぎるほど焦る理由があった。

 そう、今日からゴールデンウィーク。捩眼山に行く日だ。連日の夜の妖怪退治ですっかり疲労が溜まっていた露彦は、ぐっすりと熟睡してしまった。
 待ち合わせに遅れてしまったのだ。自分のことだが腹が立ってしかたない。

 新幹線に乗ってやっと辿り着いた目的地に一応は、安心をする。

「ここが、捩眼山…!こいつは、ただの山じゃねーみたいだな。急に心配になってきた」

 既に空の色は茜色、もう夕方に変わっていた。周りの新鮮な空気に混じり、山から漂う澱みの妖気。
 こういう勘は、幾たびも妖怪と共に行動をして来た露彦だからわかる。
 ──危険だ。人間には。
 住んでいる妖怪の格が違う。
 手元の地図と清継からの旅館住所を確認する。
 夜に着くかどうかわからない山道。歩くたびに仲間の安全が知りたくなる。鞄から式神の少し変わった札取り出す。

「貂(てん)・召還」
「む、わー!露彦だ!!久しぶり〜」
「ま、巻き付くなよっ」

 貂は、イタチやモモンガのような容貌をしており、茶色い毛並みに目が赤い妖怪。
 妖怪にしては可愛らしいのが印象的だ。

「京から呼んだのには理由があるんだよ。人間を守って欲しい」
「また人間か〜まぁ、わいに任せておきな!」
「山全体を探せ、炎を使って俺に知らせてくれ」
「あいよー!」

 愛嬌たっぷりの頭の貂は、露彦の肩からおりると仲間の貂達に指示を出す。

「てめぇら各自見つけしだい知らせろ!解散!!」

 瞬時に草村に入り込む速さは、気に入っている捜索隊。頭の貂とは、妖怪で言う盃を飲んだ仲だったりする。

「鳩達、上空から人間を探せ」

 10羽程の鳩の形をした式紙を山に散らばせる。準備は整った。後は、見つけ出すのみ。
 足を進めるたびに夕方がしだいに暗闇に染まって行く。
 ふと目線を上に上げると不安をかきあげる物が目に入った。

「っこれ、は、爪跡…巨大な爪」

 更に周りを探すと牛の銅像を見つけた。

「牛鬼、だったのかこの地は、人間を連れて来る場所じゃなかっかた!!」

 妖怪の中でも妖怪を脅かすだけの奴らがいる。
 願っていた。ただ脅かす妖怪だと。だが、そんな簡単に行くはずもない、牛鬼といったら人を喰う者もいる。ゆらが居るが、何かあってからでは遅い。

「あれは、貂の炎柱。もう見つけたのか!」

 突如、空に向かって炎が巻き上がる。貂の知らせに駆け足で向かって行った。
 天狐と猿神を出し、猿神の背にのって山道を駆け抜ける。
 露彦は、まだ知らない、刻一刻と戦いの幕開けは近づいていた。
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