妖怪と共に

□番外編
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 訝しげに見やってから少し離れた場所に座る。

「そういうこと」
「わざわざ来るなんてご苦労なことだね」
「電話番号も知らない相手に連絡手段はないからだ。住所だけは一応教えてもらって来たが、当てにならなかったな……」

 帰ったらぬらりひょんに物申す。

「で、どうして知ってたんだ。本当のところを教えてもらおうか」

 庭先を眺めながら淡々と言う。玉章は、露彦の横顔を一瞬見てから言うことにした。

「夜雀に聞いたんだ。でも彼女はもういない。戦いの後に魔王の小槌と共に消えたよ」
「消えた?あいつはお前の幹部だろう?」
「彼女が小槌のことを僕に伝えた。夜雀の後ろには誰かがいてね、そいつと連絡も取り合っていた。だが、もう連絡すら出来ないね」

 夜雀の後ろにいる影。そいつがこの戦いを産み出した張本人と言ってもいい。

「君のことを聞いたのは、夜雀と詳しく知っていたのはその後ろの人物だ。名前は明かしてくれなかったが…僕が知っているのはこれくらいだよ」

 小槌のことといい、俺のことも知っているような人物。知っている中では何人かいるが、陰陽師が妖怪に加担するのは滅多にない。ないとは断言できないが、それでもまず俺が知っている中にはいないだろう。

「夜雀は今、そいつのところにいるってことか」
「そうだろうね」

 夜雀の追跡をすればどうにか目的の人物に結び付けることが出来るな。
 ──占いでもやるのか…難しいな…材料が足りない。
 息を吐きだした俺に玉章が、猫又に追いかられた犬を掴みながらこっちを向いた。

「1ついいかい」
「ん、なんだ」

 改まって言う玉章の声に久しぶりに、心を読みあっているような感じがする。

「君はどうして奴良組にいるんだい?天狐族が同盟を結んだ話は、聞いていないよ」
「同盟を結んではいない。俺が勝手に住んで、補佐官をしているところだ」
「本当のことかな」
「本当だとも。そう疑い続けるといつか罰が当たるぞ。俺より年下なんだから年上の言うことぐらい聞け」
「…老けていたとは…忘れていたよ…っふ、それは申し訳なかったね」

 ──なんてガキだ。全く信じてねぇ。
 いや、信じるも何も知っているだろうな。情報の中でそれくらいのものが含まれていてもおかしくはないはず。

「なんかむかつく言い方だな」
「そうかい?僕はそうも感じないけど」
「……嫌な奴だ」
「僕も君のことは好きではないね」

 互いがまだまだ打ち解けあいそうにはない。
 まだ野望に燃えている玉章に、俺を敵大将として見るなと言っても無理だろう。彼は、諦めてはいない。奴良リクオに敗れたとしても、また一からこの四国をまとめあげるらしい。
 リクオも四国のおかげで成長は見せたが、やはりこの男にはまだまだ敵うまい。熱意というものが格段に違う。

「四国の妖怪は日本の中にも多いだろうから、大変なはずだ。京もいるが、四国には負けるだろう」
「畏の多さで言えばそっちの方が多いんじゃないかな」
「神社の信仰は全国規模だが…四国をまとめるのは骨が折れるってもんだ?大丈夫だろうか」
「僕はそれくらいで弱音を吐くつもりはないね」

 敵大将としてまとめ上げることについて、いろいろと語り合っていたら時間が経過して、夕方に日が傾く。リクオには悪いが、玉章は大将としてわかっていることがあり、同じ年代ぐらいの者としては会話が弾む。

「お前が言うとそう簡単には、負けなさそうだ。ま、呼べば手伝ってやってもいいけどな」
「…僕を侮ってもらっては困る」
「すまんすまんってそんなに怒るな」

 木の葉をまき散らしながら言われたら、攻撃されそうで怖いものだ。

「僕にとっては君も敵だよ。四国の次は、京都が近いね」
「……本気で狙ってないだろう」
「さぁ、どうだろうね」

 不敵に笑う玉章に舌打ちをする。その心中は全く見えない。
 猫又は旅の疲れで寝てしまい、犬も寝てしまっている。互いの親心としては、そろそろまともに寝かしてやりたかった。

「見えない奴だよ。敵に回しては最悪だ。同盟をしたいところだが…お前の顔をボコボコに出来なるのはな」
「やってみればいい」

 玉章の強気な態度は崩れることがない。挑発的に言う彼は、いずれ力をつけるだろう。

「でも今のお前じゃ弱い。早く強くなれよ」
「君を驚かせるくらいの強さを持って、前に現れてみせるから待っているんだね」

 腰を上げて、帰るかと猫又の頭をつつく。
飛び起きた猫又は、周囲を見渡すと俺の肩に飛び乗ってきた。

「そろそろ帰る。聞けたこともあったし、目的は達成。それに、玉章もいい奴になっていた」
「なんだい、そのいい奴ってのは」

 歩いて帰ろうとする玉章が俺の後ろを歩く。そんな玉章に人差し指を出して1つと言う。

「1つ、心がある。2つ、温情があって面倒見がいい。3つ、人を襲わなくなった」

 振り向かないままに言い伝える。

「お前は、いい奴になった。これから信頼を得るにも大変だとは思うが、頑張れ」

 それじゃあ、と玄関まで来た俺は玉章を撫でて帰ろうとしたら、手を弾かれた。
 弟分を持ったような思いになった俺的には、少し寂しいものがある。

「またな、玉章」
「ここに来るときは敵として歓迎するよ」
「大歓迎で頼む」

 猫又も手を振って帰って行く。
 ──今日の泊まるホテル用意してあったから、そこに行くか。ついでに帰りに玉章の親父さんにも会っていくかなぁ。
 歩いて行く露彦を見ながら、玉章はまだその場にいた。じっと背を見つめる。

「…露彦、僕はいずれ君すらも越えて見せる」

 ──そう言う声も聞こえてるんだけど、まぁいいか。同盟を組みたくても戦って勝ってからじゃないと、きっとあいつは俺と手を組みそうにないな。
 口元を歪めてほのかに笑った。


END
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