妖怪と共に

□第五章
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02:復 活 の 呪 文 的


 今日は、もうコイツが目覚めずに3日目を迎え、昼に見にきてやった。
 話し出せばうるさいコイツが寝ているのは、なんとも言えない気持ちになる。
 鴆は露彦の式神がいないことを見計らってやって来たところだった。どかっと露彦の寝ている側に座り、静かな声で呟く。

「まだ、起きないのかよお前は。リクオは元気に学校行こうとしていやがるのに」

 返答もないことは承知のうえで話しかける。

「意外にもお前が居たときの方がリクオは大人しかったんだけどな、言うこときかなくなった」
「………」
「大将だから逆らうのはいいのかわからないが、傷が治るまで大人しくしてほしいもんだ」
「………」
「今日も安静にしてろって言ったんだが、リクオの奴、抜け出して学校行ったんだ。しょうがねーから、雪女と青田坊が追いかけて行ったよ」
「………」
「俺も学校に着いてきたかったが、体がなー…」
「お前さん露彦に話して何になる」
「!?お、脅かすんじゃねーよ猫又」
「気づかぬのが悪いな」

 部屋の隙間から入ってきた猫又は、隣に座っている。
 ゆらりゆらりと二つの尻尾をゆらしながら露彦の方を見る。俺もそれにあわせて同じ方向を向いたまま頬杖をつく。

「そんで、さっきの質問に答えんか」
「あぁ」

 よくわからないが、この猫又には俺よりも沢山の時を生きているように感じる。
 親父や総大将のような長い年月を。

「愚痴零してた」
「何も話さないこやつにか?」
「そうだ」
「寂しい奴だなぁ〜おめぇさん」

 哀れむ視線を向けられると、額に血管が浮かび上がる。
(いちいち痛いところをつくんじゃねーよ!わかってんだ、そのくらいはよぉ…)

「コイツが無言なのが楽なんだ。顔に落書きくらいしたいもんだぜ」
「だとよ、露彦」

 溜め息混じりにいった猫又は露彦の頭に飛び乗る。

「おい、そいつ寝てんだぜ。猫又も話しかけてどうする」
「気づけ馬鹿者。そして起きろ馬鹿者!起きろ!起きろ起きろ!」

 ポコポコと肉球の可愛らしい猫の手で頭を叩き出すが、効果はいまひとつのようだ。
 起きないだろうさすがに。何回か叩いたあと、諦めたのか頭から降りる。

「ほらな、起きるわけがねぇ……」
「露彦起きろおおお」

 降りたと思った猫又は、勢いをつけてジャンプし、今度は露彦の腹めがけて頭突きの攻撃をしかける。
 急降下した猫又に当たったのは、布団でもなく腹でもなく足の裏だった。
 そう、ニヤリと笑った悪の面した露彦が足で攻撃を跳ね返した。

「ニャータタタ!」

 顔が赤くなった猫又は布団の上で顔を抑えてゴロゴロと横になる。

「うるせーな猫又は、少しはゆっくり寝かせろっての」

 ボサボサの頭をかきながら、布団から立ち上がる。

「お前起きてたのかよ!!」
「さっきださっき。じゃなくてだな…愚痴を寝てるとこで吐くとなんか(心配して)眠れねーじゃん!今度鴆が寝てる時、顔に落書きしてやるから覚えとけよ!」
「いいじゃねーか!(怪我とか気になったか)様子見ついでにリクオのこと教えてやってんだからありがたく思え」
「寝てんのにありがたく思えるか!」
「俺が手当てしてやったんだありがたさも湧き上がるだろ、ハハハ」
「うわ、偉そうにいわれるとありがたさ海の底に沈むわー…」
「あぁ!?」

 布団に寝転がる猫又は、布団の暖かさに猫しての本能か気持ちよさそうにしている。

 なんやかんやでこんなやりとりがあと10分は続く。
 コイツ、露彦と俺の会話は心のキャッチボールどこしゃねぇ、戦いだ。起きたそばからこんな会話するのは、露彦ぐらいしかいない。だから、コイツと話すとストレス解消だ。
 ――悩みがなくなるぐらい。
 こんな奴でも、起きてよかった。
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