お題。

□涙をみせるくらいならと雨の中に逃げ出す君に
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差し出した手は空を切る。
君の姿はほの暗い雨の中に消えてゆく。















君を逃さない為に、その涙に濡れた真っ白い頬を撫でて、その赤く艶やかな唇にキスをして、儚く消えそうな細い身体を壊すくらいに強く抱き締めてあげようとしたのに。
それを出来るのは俺だけで、他の誰にもそんなことさせたくない。
高貴な君が泣き出したのだって俺の所為。君を泣かせるのも君を慰めるのも俺だけが出来る特権。

ああ、強気で天の邪鬼な君は、どこに行ったのだろう。
涙なんか見せたくないって、もう何回俺の前で泣いたんだ??
甘えるように泣いたり、
すがるように泣いたり、
静かに忍ぶように泣いたり、
頬を赤らめて浅い息を繰り返しながら喘ぎ声の中で泣いたり、いくつもいくつもその君の涙を拭ってきたのは一体、誰??









ザーザーと天から流れるように降る雨の中、俺は傘も差さずに歩き出した。
涙をみせるくらいならと雨の中に逃げ出す君に、もう俺からは逃れられないんだと、涙は俺の前だけで流すようにと、伝える為に。

















涙をみせるくらいならと雨の中に逃げ出す君に
(今から迎えに行くよ。)

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