書架の魔女の現代入り 〜urban legend Witch
□幕間A
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BGM 亡き王女のためのセプテット(緋想天)
「さて……そろそろお仕舞いかしら?」
「もう終わりなの?つまんないのー」
安全に弾幕決闘が見れる場所に移動し、最初に聞こえた声は吸血鬼姉妹のものだった。
うん、あの不可能弾幕みたいな複数のスペルカード同時使用なんて、どうしたって耐えきれる筈がない……。
それこそ特殊な種族や程度の能力があればどうにかって感じなんだろうけど隠れる前に見たあの密度は避けようもなく、反撃のしようもない。完全回避なんて正にルナティック……狂気の沙汰だ。
「全く……二人ともおいたが過ぎるんじゃないの?」
ところが偽物は気が触れているみたいだった。
紅の破壊の奔流が過ぎ去り、そこから現れたモノはボロボロになりながらも悪魔の姉妹を見据えて一歩一歩近づいてきた。
ただ、先程とは違い片腕が失くなり、破れた衣服の下から魔女のものではない何かが見え隠れしていた。……ただ不思議なことに、傷口からは一切の血が流れていなかった。
アイツの正体って……人形?
「あら!貴女もしかしてお人形さんなの?」
そう頭によぎるのと悪魔の妹が声をあげるのはほぼ同時だった。
「違うっ!!私は……魔法使い……そう、七曜の魔法使い、パチュリー・ノーレッジよ!」
口を開く度、動く度に彼女を覆う『パチュリー・ノーレッジ』というテクスチャが剥がれ落ちる。残った腕は斑に皮膚の下のモノが顕になり、顔は口の動きに合わせて頬辺りの皮が徐々に散っていく。
「嫌……嫌よ……!私はまだ生きたい……生きていたい!人間の代わりの道具になんか戻りたくない!」
偽物は痛々しい姿で叫びを上げる……。
まるでここに生きていることを示すかのように。
「……フラン、下がって。出来れば咲夜たちの側にいて」
「でも、お姉様と一緒に……」
「ええ、ごめんなさい。でもここだけは私の我が儘を聞いてくれないかしら」
「むぅー……わかったわ。その代わり」
「ありがとう、フラン。また一緒に遊びましょう?今度は最後までね」
「うん!」
フランちゃんが私たちの元にやってきて、レミリアさんは一人、偽物の側に近付いていく。
BGM 各々の結末(原曲)
「ねぇ……この子も、貴女も長く生きてきたのでしょう?だったら、私と代わってよ……。やらなきゃならない事は須く終わってるのでしょう?もう残ってないのでしょう?あとは平穏な日常を何度も繰り返していずれ消え行くだけなのでしょう?それなら……」
「そうね、正直代わり映えのない日常には飽きてしまうわ」
「……!だったらーーー」
「でもね、一日として同じ日はないのよ。季節は巡るし、梅雨や野分もその年によって程度は様々。やらなきゃならないこともないけれど、だからといってやりたいことがない訳じゃない。月に行けるなら手を尽くして辿り着くわ。それこそウチのお抱えの魔法使い様の力を借りてね。神社の宴会も、私が主催する催し事も……まだやりたいことはある。それこそ私が消えるまでそれは尽きないわ」
「……強欲なのね、吸血鬼って」
「いや、生きているからこそ強欲なのよ。
生きたい、死にたくない、あれが食べたい、これが欲しい、何処かに行きたい、知りたい……究極的には、この世の全てが欲しい……なんて、博麗の巫女に聞かれたら退治されそうだけど」
「私だって……まだ戻りたくない、このチャンスを逃したら私という存在は霧散するかも知れない……意思なき道具ならこんなこと思わなかったのに……」
「貴女の正体が何かは知らないけど、人形に類する物ならまた幻想郷に来れるんじゃない?人形の妖怪や人形遣いだっているんですもの」
「そうだと……いいわね」
「ええ、そうあって欲しいわ。パチェには直接謝ってほしいもの」
「会えれば……だけどね。魔力を帯びた私の核を壊せばこの入れ替わりももとに戻る筈よ」
「……」
「疑り深いわね……今更嘘をついて何の特があるの?」
「そうか、そうよね」
「ええ、私に未練ができる前にさっさとやりなさい、レミ……いや、吸血鬼さん」
「……人も、獣も、悪魔でも、この弱点はみな一緒。
貫かれれば お仕舞いよ。
必殺『ハートブレイク』」
スペルカードの宣言のあと、硝子が割れるような音がして、偽物は力なくその場に崩れ落ちた。
「終わったの……かしら?」
「恐らくは……」
咲夜さんのあとに続き皆でレミリアさんの方へと向かう。
「お嬢様、お疲れ様でした」
「ああ、それにしても……正体は何だったのかしら?」
「他人の姿を真似る……んですかね?本体というか実際は、ほら大きい人形みたい」
動きを止めた物体に近づき、本来の姿を見定める。
そこには私が思っていたような妖怪でも、怪異でもなく、人の形をした人工物が転がっているだけだった。
「やっぱりお人形さんだったのね?パチュリーの真似したお人形さん……もっと遊びたかったなぁ」
「それじゃ今度アリスでも呼んで人形劇でもして貰おうかしら?」
「人形劇?たのしそー!お姉様、それはちゃんと一緒に見るのよ!やくそく!」
「ええ、約束ね。それじゃあ咲夜、明日にでもアリスに仕事をお願いしてきて」
「畏まりました」
アリスさんの人形劇か……。
「それって私もお邪魔してよかったりします?」
内心恐る恐る聞いてみる。
あまり人間の里を見回ってる訳じゃないからたまに話に聞く人形遣いの人形劇にはとてもひかれるものがある。
「姉妹水入らずで楽しみたい……と言いたいところだけど、パチェが世話になったのよね。お礼の代わりになれば喜んで。
あと、よろしければ向こうでの話をしていただけるかしら?多分あの子の話だけよりも面白いことが聞けそうな……そんな気がするのよね」
「ありがとうございます!話は私がわかる範囲でなら、ですけど……」
「もちろん。それで構わないわ」
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BGM 明かされる深秘
帰ってきてからじゃ口止めされるかも。とのことで先輩の事を伏せつつ現代でのいきさつをレミリアさん、咲夜さん、小悪魔さんに早速話す事に。
フランちゃんは無理矢理おこされて眠いみたいなので先程自室がある地下に戻っていった。
「それじゃあ……私もどういう経緯があって結界の外にパチュリーさんが出てきたのかはわからないので、写真を撮っている日の事から話していこうかと思いますが……」
咲夜さん以外の二人が興味津々な面持ちでこちらを見つめている。
身長のせいかレミリアさんは先程の弾幕決闘の時とはうってかわって見た目相応な子の反応に見えてしまう。
「ちょっと、いま失礼なこと考えなかった?」
「いやいや、滅相もない。こんなに親しみやすさと苛烈さを兼ね揃えた吸血鬼なんてお目にかかった事がないので……」
「ふふ、そうでしょう?菫子さん、やっぱり貴女は黒幕だっただけあって妖怪を見る目は確かね。気に入ったわ」
「ありがとうございます。それじゃあらためて、そちらにいるパッチェさんにも注釈をいれて貰いつつ……って」
いつの間にか彼女は戻ってきていた。
その代わりなのか先程まであった残骸が消えている……。
滞っていた入れ替りが完了したってことなのだろうか。
思考を戻ってきた彼女に向けると目を腫らし、顔が紅潮している……。まぁ、あの人がなにか言ったんだろう。最後の最後までらしいというかなんと言うか……。
「パチュリーさまぁー!」
見つけるやいなや、小悪魔さんは彼女に抱きついていた。
「心配したんですよぉ……。大丈夫ですか?お怪我とか……食欲とか」
「大丈夫よ、小悪魔。全部平気だから」
「漸く戻ったか」
「ええ、だいぶ留守にしてたみたいだけど……なんとかなったわ。心配してくれたのね」
「勿論。貴女が居なくなったのよ?心配しない方が可笑しいんじゃなくて?」
「それもそうね。ありがと、親友」
「どういたしまして、親友。それじゃあ菫子が戻ってしまう前に、パチェの口からも外の話を聞こうじゃないか」
「そうね。あと菫子……色々ありがとう。事件自体は終わっちゃったけど、話をするのに付き合ってくれる?」
「勿論です!」
こうして、外の世界を巻き込んだ一連の事件は幕を閉じた。
外の話をするのに何日かかかったのは大変だったけど、それでも私の夏休みとしての充実した期間になったのは間違いない。
……戻れば暑さや花火大会の混雑でまた憂鬱になるのだろうけど、ここや神社で愚痴をこぼすのくらいは許されるよね?
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