書架の魔女の現代入り 〜urban legend Witch
□プロローグ 『夢と出逢いと』
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BGM 月見草(原曲)
鍵を回し、ギィ……と少し軋む音を立てる扉を開けて自宅へと入る。普段ならそのまま食事の準備になるのだが、今日は放課後に色々とあったせいかすぐさまソファーに腰かけてしまった。
ただ、嫌な疲れと言うよりかは充実した良い疲れの方が大きい。
もう少しだけ休んだら夕飯の準備をしよう。そう思いもうひとつ体の力を抜いた時にガタッと別室から物音がした。
強ばる体。人に散々他人に用心しろと言っておきながら、自分が不用心とは……。
戸締まりはしっかりとしたはずなのだ。帰ってきて鍵を開けるまでは。
玄関から護身用に傘を取り、ゆっくりと物音がした部屋へと向かう。もしかしたらなにかが崩れただけかもしれない。
その部屋の前まで来てみると何となくだけど人の気配がする。
気が動転している自分は、不安に駆られながらも扉を開いた。
その部屋の中には……
BGM ラクトガール〜少女密室
「あら、もしかしてここの家主さん?」
埃が舞う部屋の中には薄紫の服を着た少女が月明かりに照らされていた。
「そう、だけど……」
「ごめんなさいね、本来なら干渉できないって聞いたのだけど。見ての通り、散らかしてしまったわ」
突然の出来事に理解が追い付かず、聞かれたことに対して生返事をしてしまった。
そして、申し訳なさそうに謝る彼女は、部屋の状況もあいまってどことなく神秘的に写った。
「え……っとキミは……何をしているんだ?」
改めて部屋を見渡すと、物置がわりに使っていたので、適当に積んでいた荷物が倒れておりそのせいで依然として埃が漂っている。
「ちょっとそこの箱に躓いてしまってね……。大丈夫よ。すぐ片付けるわ」
「そうじゃなくて……」
「……あぁ、ごめんなさいね。誓って言うけど泥棒ではないわ。物を盗られる辛さはわかるから」
「急に家に入られた上、泥棒じゃないと言われて『そうですか』って信じられると思う?」
「むしろ、本当に泥棒だったらこうやって問答すると思うのかしら?普通なら隠れたりしてやり過ごすのではなくて?」
言われてみると確かに……。なんとなく言いくるめられている気がするが。
「……まぁ、泥棒じゃないとしてだ。どうやって家に入ったの?」
特に窓が割られている様子も無い。このままだと突然この部屋に現れたようなものだ。
「さあ?どうやってなのかしら。私にもわからないのよ」
「あのねぇ……」
「でも、こちら側の世界には理由がわかる人がいるのではなくて?」
「こちら側って……」
まるで自分が別世界の人間とでも言うのだろうか。
そのあとも色々話したが荒唐無稽な話ばかり。
呆れた自分は一先ずこの子には家に帰ってもらおうとしたのだが。
「多分時間が来れば勝手に帰れると思うわ」
と真面目な顔をして言われてしまったので、その時間とやらが来るまでは見張っておくことにした。
「そういえば、この崩してしまったものは片付けて置くわね」
「いや、いいよ。後でやっておくから」
少しばつが悪そうに告げて物置を片付けようとする少女を止め、散らばっているものを集めようとしたときだった。
「大丈夫よ、すぐ済むもの」
そう言うと彼女はポツポツとなにかを呟きはじめる。
時間としてはとても短い間だったのだろうが、それを見ている時間はとても長く感じた。
呟き終えて直ぐは何も起こらなかった。
からかっているのかと相手の顔を見ると微笑みを崩さずこちらを見ている。
それからほんの少し経ったときに異変が起きた。
散らかっていたものがひとりでにもとの位置に戻り始めたのだ。
驚いている間に部屋は元通り。普段と違うところがあるとすれば、依然として月明かりの元佇む少女がいるだけである。
「驚いたかしら?」
「今……何を?」
「ふふっ、なんでしょうね?」
そう答える彼女に、少しだけ綻んだ口許に、この神秘的な雰囲気に心奪われていた。
「どうしたの、こっちを見て呆けちゃって?」
「いや、あまりにも綺麗だったから……」
「あら、お世辞でも嬉しいことを行ってくれるじゃない」
お世辞ではなかったのだが……
「それよりも、今のって」
「魔法だけど?」
さも当然のように言ってのけた。
そんなばかな……と言い返す事はできない。目の前で起こっていたのだから。
ひとつため息をして目の前の少女を見る。すると、その輪郭がぼやけてきている。
「なるほど、そろそろ時間なのね。短い間だったけど楽しかったわ」
満足げに語る彼女を、気づいたら引き留めようとしていた。
「待って!」
「待つも何も、夢から覚めるだけ。私の力じゃどうにもならないわ」
「だったら、せめて名前を」
「そうね……もしもまた会えたなら。その時に教えてあげるわ。それじゃあね」
そういうと、彼女は消えてしまった。
まるでそこにははじめから何もなかったかのように。
残ったのは月明かりと漂う埃だけだった。
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