スミレソウの咲くころに

□宇佐見菫子の一存
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宇佐見菫子の一存
      秘封倶楽部活動記録

「『恐怖心』を克服するには、その相手を『知る』事こそが重要だと思うのよね」
 椅子に深く腰掛けながら会長はそんなことを問いかけてきた。
 確かに、そうかもしれない。得体の知れないものへの恐怖心はそれが何か、どんなもの、どんな事なのかを理解すると途端に怖くなくなるものだ。
 それに昔からよく言うもんな、『幽霊の、正体見たり、枯れ尾花』って。
 ……とはいっても、たまに解っていても恐怖する存在はいたりするのだが。
「それで、今日はなにするんだ?」
 この部活……いや非公認サークル『秘封倶楽部』会長の宇佐見菫子はこちらに視線を向け
「改めて身近なオカルトを調査するってことで……この学校の七不思議でも調べてみる?」
 と提案してきた。
 七不思議……そう言えば小中学校でもあったなぁ……と懐かしさを感じ、この学校にも存在するのかが気になり首を縦に振っていた。
「面白そうだな。……そういえば少しだけ聞いた覚えがあるような……」
「でしょ?私も聞いたことある話だけで七個揃っちゃってるのよ。七不思議ではずせない話ももちろん聞いたわよ」
「七不思議ではずせないってなると……あぁ、『七つ目を知ったら死ぬ』とか『全て知ったら不幸になる』とかのコンプリート系の話な」
「そうそう。やっぱりウッチーは話がはやくて助かるわ……。昔もこう言うことしてたの?」
 ノートに『東深見高校七不思議』と書き、その項目の一つ目に記入しながらこちらに問いかけてくる宇佐見。
「……確か、何だかんだで小中で流行るから怖いもの見たさで調べたことはあるな」
 話を聞いているうちに興味をもっていて、小学校中学校それぞれの七不思議をコンプリートしている。
 それでわかったのは『七つ目を知ったところで何が起こるでもない』っていうことだった。
「うん、やっぱり誘って正解だったわ。とりあえず聞いたことある噂を書き出してみたんだけどどう思う?」
 こっちの隣の椅子に座り、書いていたノートを見せてくる。
 ここ最近で見慣れた少しだけ丸みを帯びた文字の羅列にはこう記されていた。

『東深見高校七不思議(仮)
その1 夜の学校、普段は12段の階段が13段に増えている。
良くあるやつ。昼と夜で数え方の違いがある可能性。
その2 夜の音楽室から流れるピアノの音。
楽器に詳しくないから調べてみたいやつ。とりあえず暫定的にポルターガイストかな?
その3 トイレの花子さん
ド定番。なんで高校で花子さんなのかは知らないけど耳にしたことはある。
その4 理科準備室の……。
特殊な空間だからそう見えてしまった可能性。話が幾つかパターンあり。人体模型か骨格標本か……の二通り
その5 中央階段四階の踊り場に設置されている大きい鏡。その鏡は夕暮れ時に異界と繋がる。
要検証。
その6 旧校舎の三階、一番奥の部屋とその隣の部屋の壁の間に閉じ込められてしまった生徒の噂。
工事中に起きた事故……?壁を壊すわけにはいかない。
その7 全てを知ったものは……
    死亡?不幸になる?要検証』

「……この所々に見える『要検証』って文字は見逃すとしてだ。『てけてけ』と『音楽室の肖像画』は入ってないのか?」
「え、その二つの話もあったの?」
 どうやら検証に入る前にこの学校には七不思議が九つあるということがわかってしまった。というか、七つ目を知ったらどころか七つ目を越えてしまった。
「もしかしてだけどさ、七不思議ってそれ以上の数存在するのか?」
「ま、七つだけって訳ないものね。全国的な怪談話だし、バリエーションがあるとは思ってたけど……。よし、決めた!」
 隣に座っていた宇佐見は立ち上がり、教室では見せないような生き生きとした表情で
「今夜、この七不思議(仮)を調査しましょ!」
 と宣ったのだ。
「いや、調査をするのは構わないけどさ……。今夜?」
「ええ、今夜よ。ほら、いくつかの噂は夜や深夜に起きてるみたいだから」
「そんな時間だと流石に警備会社のセキュリティとかで侵入すら出来ないんじゃ?」
「そこはどうにかするから任せておきなさいって」
 こうなってしまったら、この会長は考えを曲げない。
 それでどうするの?と座っている俺に宇佐見は今一度問いかける。
 やれやれと肩を竦めつつ、わかったよと首を縦に振った。
 それをみた彼女は柔和な笑みで
「ありがと!それじゃあ、また後で……駅集合でいいかしらね?」
 と口にした。
 この部活、『秘封倶楽部』でオカルトスポットの調査として放課後連れ回された事はあるが、まさか夜の学校に忍び込むことになるとは思わなかった。
「了解。……というか、このまま夜まで隠れるってのもありなんじゃないか?」
 今いる秘封倶楽部の部室(と言っても空き教室を無断で借りているのだが)なら、電気を消して息を潜めていれば忍び込むよりは簡単な気がする。
「それだと、仮に見つかったときが大変でしょ?忍び込んでるときに見つかったなら逃げてシラを切ればいいけど、ここで隠れてるのが見つかったら逃げ場もないじゃない」
「どっちにしろ、見つかったら謝るじゃなくて逃げるのな」
「あったりまえでしょ。こんないい部屋を追い出されたくないからね」
 遅くなる前に一旦解散、また後でね。と今日の活動は一度終了し、学校を後にする。
 さて、どうやって夜に学校へと向かおうか……。と軽い足取りで前を進む会長の背を見ながら、そんなことを考えていた。



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