スミレソウの咲くころに

□宇佐見菫子の困惑
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 梅雨が空け、少しすると教室の中は何処か落ち着かない様子になってきた。
 そこかしこから聞こえてくる話は授業に関する話題ではなく、この夏どうする?と言ったもう少し先に待っている行事についての話ばかりだ。
 そんな光景をクラスの端……窓際の最後尾という、夏場では地獄のような環境の自席から眺めていると林田が意気揚々といった面持ちで話しかけてきた。
「なー!夏休みだぜ、夏休み!」
「それくらいわかってるって」
「いーや、わかってないね。この夏は、高校一年の夏は一度きりなんだぞ!?しっかりと計画を立てて過ごすべき……この前のGWの二の舞にならないようにな!」
 声高らかに宣言する林田。あまりの志の高さにクラス内がざわついている。
「あのお調子者があそこまで考えてるなんて……明日は大雨か?」
「なんか変なものでも食べたのかな?」
「この間の試験で思ったより成績が良くなかったから、それで勉強に目覚めたとか?」
 そんな周囲の声を知ってか知らずか林田は口を動かし続ける。
「だから俺は考えたのさ、この夏を有意義に過ごす方法をな!」
 おお!とクラス内の注目が一気に集まる。
「それは……」
「それは?」
 ゴクリ……と生唾を飲む音が聞こえた気がした。
 林田の次の一言を聞くためかいつの間にか室内はシンと静まり返っている。
「それは、ずばり……ナンパだ、ナンパぁ!!」
 どうしてそうなる……。
 同じことを周りも思ったのか、呆れたような溜め息が多々聞こえてくる。
 そしてこちらへの関心を無くしたのか、それまでの話を続けだし、室内は普段通りの騒がしさを取り戻す。
「やはり夏といえば、ラヴ!アーンド、ロマァンス!めくるめく青春の一ページを華やかに彩る存在といえば?そう、グァールフレェンドゥ!その相手を探すために計画を練り、手を尽くすのは至極当然の事と思わないか、なぁウッチー!?」
「いや、そんな力説されても俺は着いていかないぞ?」
「そうだろう、そうだろう。あとは小野寺を率いて……なぁにぃ!裏切るのか山内慎太郎!!」
「裏切るもなにも、そんなお前の勝手な計画に巻き込まないで欲しいんだけどな」
「それに、僕だって首を縦には振らないよ」
「んな、小野寺……お前まで」
「そもそも、今のところ僕はそういった相手を探している訳じゃないし、君みたいに何がなんでも欲しいって考えはないんだよ」
「小野寺のいう通りだ。万人がお前のように四六時中恋愛の事を考えている訳じゃないんだから、少しくらいその熱量を勉強に割いたらどうだ?」
「嘘だろ……高校生男子なら彼女が欲しいというのがこの宇宙の真理じゃないのか?」
 聞いちゃいねぇ……と言うよりも、なんだそのくだらない真理は。
「こ、この際誰でもいい!俺と共にナンパをしに行こうと言う勇気あるものはいないのか!?」
 慌てて人を募る林田。だがここまでの大事になってしまったせいか、この場でやろうという男子は現れなかった。
 そのあとに聞いた話によれば他のクラスまで波及し、結果3、4人で夏休みにナンパをしに町に繰り出す事になったとか。
 まあ、他人の人生設計にとやかく口を出せるほど生きてるわけでもないんだし、これで痛い目をみれば、少しは奴の高校生活が良くなるんじゃないか?
 まあ、痛い目をみたところでさほど変わる気配がなさそうなんだけども。


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