スミレソウの咲くころに

□如月センディング
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「甘いの、食べたい!」
 どういうわけか、妹の鈴香がそんなことを宣ってきた。
「……食べればいいんじゃないか?確かまだ残ってただろうし」
 受験勉強で甘いもの食べたくなると以前言っていたからか、鈴香用にと母親が何種類かチョコを常備していたはずだ。
「そーじゃなくてー!兄さんが作ったお菓子が食べたいの!」
「そんな急に言われても作れんわ……」
 けちーと言う妹を横目に材料が足りているかをチェックする。……我ながら甘いなと思うが、実際夜遅くまで勉強してるのは本当だし、高校受験もシーズンの半ばを過ぎてそろそろラストスパートだ。
 それなら多少労ったっていいだろう?
「……それで、どんなのが食いたいんだ?」
「えっ……いいの?そしたら……前に作ってくれたクッキーがいいな」
「クッキーな。わかった。近いうちに作るよ」
「やったー!ありがと、兄さん!」
「はいはい。入試も最後まで気を抜くなよ?」
「わかってるって!」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「ってことがあってな」
「……無自覚シスコン発揮してるなぁ」
「なんか言ったか?」
「いや、そうすると来週には俺も貰えたりするのかな?」
 翌日、昨晩の話を小野寺に話すとそんな風に返された。
「まあ、渡せなくはないな。作り方が大雑把だから枚数多くなるし」
「……なら、多少多めに作った方がいいかもね」
「どうしてだ?そんなに配るわけでもーー」
「日付確認した?」
「日付って……ああ、なるほど」
 そう言われ携帯で来週の日付を確認する。
 2/14、バレンタイン。被るわけではないが、その日に近い。
「……来週すぐじゃなくて14日に合わせるでもいいか?」
「まあ、その方がいいかな。学校に菓子を堂々と持ち込むなら最適な日だよ」
 そんな話をしていると、遠くの方から聞き覚えのある声で
「ちょーこーがーほーしーいー!」
 と聞こえてきた。声の主には検討がつくと言うか1人ぐらいしかいない。どうする?と目で小野寺に尋ねる。すると、ほっといていいでしょ。どうせここに来るし。と肩をすくめながら返してきた。
 すると、案の定声の主は俺達のいる席にやってきた。
「なー、二人もそう思うだろー?」
「止めとけ林田。そこまでアピールしておいて当日に貰えなかったらどうするんだ?」
「てめぇ……っ!人が目を背けてたことを突きつけてくるんじゃねぇ!」
 しまった……朝からさんざん煩かったのでつい本音が。
「まあまあ。……そうだ、林田もウッチーから貰っちゃえば?」
「ウッチーから……?あっなるほど!ウッチーの妹からってことだな?頼む!ウッチ……いや義兄さん!妹さんからのチョコを俺に!」
「誰が義兄さんじゃ!それに、アイツじゃなくて俺が作るんだよ」
「自分で……ああ、そっか。いいんだぞ、ウッチー。貰えないからって自作自演しなくても」
「ちげぇよ!?」
暖かい目でこっちを見てくる林田に対してついつい声を荒げてしまった。
「はぁ……。もういいや」
 鞄を持ちそれじゃ先帰るわと席を立つ。
 買い出し?と訪ねる小野寺にそんなところと答えながら教室を出た。林田が何か喚いていたが無視して昇降口へと向かう。
 下駄箱から外履きをとりだし……そのまま部室棟へと足を向ける。帰ると言った手前、ここに外履きがあるのは不味いと思ったためだ。
 なるべく人に見つからないようにと祈りながら、ある空き教室へと進む。運良く誰とも出会わずに目的の教室前までたどり着いた。左右を確認してからこっそりと室内へ入りこむ。
 ここは東深見高校に認められていない非公式サークル、『秘封倶楽部』。が(学校には無断で)利用している部室であるのだが……。
「あれ、いない?」
 会長である宇佐見の姿はない。鍵は空いているのに。
「……席はずしてるだけか?」
 会長の指定席付近に彼女の荷物が置いてあるのでまだ校内にはいるんだろうが……。
 とりあえずほぼ定位置になった椅子へと腰かけ、彼女が戻ってくるのを待つことにした。



ー如月センディングー


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