書架の魔女の現代入り 〜urban legend Witch

□プロローグ 『夢と出逢いと』
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「……俺に手伝える事はないかな?」

落胆しへたり込む少女。その姿を見ていたらつい手を差し伸べてしまった。

「……どういうつもり?」

「そんな風に落ち込んでる姿を見たら放って置けないっての。簡単にいうと……キミを、助けたいんだ」

「落ち込んでる?私が?馬鹿言わないで。今の私は『幻想郷の外の世界』に来たっていう好奇心の方が強いの。わかる?
 それに……何の力も持たない只の人間が魔女を助けようだなんて。自惚れもそれくらいにして。そういうの虫酸が走るの」

そう言い苦虫を噛み潰したような顔をしてこちらを睨み付ける魔女。

「そう言われてもな……所謂別世界?から来たキミにこの世界の常識がわかるのか?」

「別にここで隠れ住めば……」

「毎日とは言わないがここは利用する人がいる。それに誰もいないはずなのに部屋の明かりが着いていたりしたらすぐに噂は広まってくぞ」

「まぁ私がいる事がバレたとしても問題ないし……」

「確実に警察に届けられるな、不法侵入ってところか」

「魔法を使って……」

「いきなり変な力を使ったら恐らくその場で蜂の巣か、良くて研究材料か」

「……あー、わかった。わかった。私の負けよ」

そこまで言うと向こうも諦めたらしく、肩を竦めてそう言ってきた。

「仕方ないからアンタの提案に乗ってあげる。でも、どうやって助けてくれるのかしら?」

「いま言える事は……戻れるまで身の安全と、寝床の提供ぐらいだけど」

「……ま、人間風情にしては上出来ね。それで、私はどうすればいいの?」

「ここから出ることを考えると、その服を何とかしなきゃだよなぁ……」

明らかに目立つ。校内なら演劇部と言って動くことは出来るかもしれないけど。流石に外は歩けない。

「どこかから借りれないの?」

「……無理だ、どう頑張っても女子から借りるなんて事案すぎる……」

「はぁ……なんかないの?……ほら、あの外を走ってる子達みたいな服とか」

窓の外を覗き、部活中の生徒を指差しながら伝えてきた。

「あー、体操着か……一応それなら」

「あるのね。ならそれでいいじゃない」

確かにある。あるといえばあるのだが……。

「授業があったから汗かいてるんだけど……流石に嫌だろ?」

それを聞いて明らかに嫌そうな顔をしていた。
臭いを押さえるために少しだけ制汗スプレー吹いてるからそこまで臭くないと思うのだけど。個人的にも貸したくない。

「………………仕方無いわ」

全てを諦めきった表情で彼女はそう呟いた。

「その服を貸しなさい。……私が我慢すればいいのでしょう?」

自分より先に彼女の方が腹を括ったようだ。こうなるとウジウジ考えていても仕方がないだろう。

「……それじゃあ、ここを出て家に着くまで我慢して。家につけば服装は気にしなくていいから」

鞄から体操着入れを取り出しそれを手渡す。

「そう。なら、あそこの影で着替えさせてもらうわ。
……あっ、わかりきったことだけど。見たら殺すからそのつもりで」

そう言いながらこちらを見た目は鋭く、仮に覗こうものなら躊躇いなくこちらの息の根を止めるだろうという迫力があり、彼女の姿が視線から消えるまでその場から動くことが出来なかった。

そして見えなくなって少し経ったとき、静かだった室内に衣擦れの音が途切れ途切れに響き出した。

それを聞いては行けないと、そう感じたのでここに本来来た理由である夏期休暇前のちょっとした整理をはじめた。


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BGM 紅より儚い永遠

時間としてはものの数分だったろうに、自分の中ではもっと長い時間が経ったように感じた。

「お待たせ。それでこのあとはどうするのよ?」

出来れば早く着替えたいのだけど。と催促するように聞いてくる。

「そうするとあとは家まで帰るだけなんだけど……」

「そう、それじゃ行きましょ」

「あー待った待った。俺の本来の仕事を終わらせないと……」

とはいえ作業らしい作業はなく、最近使われることが少なかったので軽い掃除と心ない生徒がイタズラしてないかのチェックぐらいなのだが。

「なに?私にこれ以上人間臭い服を着てろっていうの?」

「いや、そういうわけじゃ……」

「本を管理するのは確かに大切だけど……せめて今はこちらのことを考えてほしいわね」

なるべくはやくこの人間臭い服を脱ぎたいし。と続けざまに言ってくる。

「……わかった」

「あら?もうちょっと融通効かないと思ったのだけど、以外と話がわかるのね」

「まぁ仕方がないとはいえ嫌なことを強制させてるんだからね。キミの要望も聞かないと」

「へー、人間の癖に気が利くじゃない。ま、咲夜ほどじゃないけど」

「それよりも、そろそろ名前を教えてくれないか?次にあったら教えてくれるって約束だったろ?」

「次に会うもなにも初対面じゃない、私達。それに魔女に名乗れっていうの?そもそも、名を知られるっていうのにどれだけリスクが……」

「千歳優希だ」

「……あのねぇ」

「リスク云々じゃないんだって。他の人がどうかは知らないけど、俺はキミを助けたいんだ」

「あーはいはい。わかりました。パチュリーよ。短い間だろうけどお世話になるし、貴方の要望通り助けさせてあげる」

彼女、パチュリーがそう言い切るのと同時にチャイムがなる。
その鐘の音は、まるでここから何かが始まる事を告げるかのように放課後の校舎に溶けていった。




そして夏が訪れるーーー


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