書架の魔女の現代入り 〜urban legend Witch

□一話 『夏休みの夜』
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BGM 仰空(原曲)

パチュリーをどうにか家に連れ帰ってから数日。特に問題なくお互い過ごしていた。それはつまり帰るためのきっかけも情報もなく、ただ時間が過ぎているという意味でもある。

そしてあの日、家についたときに約束事を決めた。
・家の中の物は壊さない限り自由に使っていい。
・問題無いようなら魔法もいくらかはOK。
・郵便などの来客時に一人なら無視する。
・仮に二人でいるときに来客等があれば、親戚という設定で話を合わせる。

といったところだ。

そして

「ここに見覚えはないかな?」

「……なにここ?」

俺が始めて彼女に会った物置に見覚えがないか確認したところ、始めて見たと。

「あーいや、……もしかすると……夢で、見たのかしらね?……でもやっぱり覚えはないわ」

ただ、歯切れ悪く覚えてるような無いようならといった感じなので恐らくは他人の空似なのだろう。

「急に変なこと聞いちゃってごめんな。それでーーー」

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と、本当にそれ以外は何もなく。学校に行くとき、帰宅したときに家に自分の他に一人いるかいないかぐらいしか代わり映えしない日常が続いていた。

ただ、今朝は少しだけ違う。終業式当日、つまりは午前中の行事や連絡等が終われば学生たちは夏休み……なので自分も何となく浮き足立っていた。

電車通学のため、同居人より早く起き家を出る。
少し遅めの起床時間の彼女の分の食事はテーブルにラップをかけて置いておく。
それだけが彼女が来てから増えた、普段と違う事。

学校に着けば、今日の全校集会の最終チェックが始まる。といっても雑務担当の自分は登壇することもないので先生方とスピーチ原稿のチェックをしたり、優秀な成績を修めた各部員の名前のチェック、記載ミスがないかを時間まで行うくらいだ。恐らくは会長達の方がもっと忙しいだろう。

チャイムが鳴り、徐々に体育館に人が集まりだす。
うっすらとだが風か吹いていてよかった。そうでなければここは酷いサウナになっていたはずだ。

校長の話、会長の話、夏期休暇中の注意事項等、よくある話が進んでいき、問題なく終業式が終わる。
教室に戻ればあとは再度確認があり、通知表が渡されて大掃除をしそれが終われば解散の流れだろう。


昼間の快適な電車に揺られ、適度な疲れに眠くなりながら自宅への最寄り駅で降り、車内と屋外との気温の差に辟易しながらも日差しの強い道を足早に進む。

普段は足を運ばない道中のコンビニだが今日はフラりと寄ってしまった。
校則では良しとされないが、こういう日ぐらい良いだろう。
この外と店内の温度の差がひどく不健康に思えてくる。少しだけ休憩させて貰い再び灼熱地獄へと足を踏み出す。

家まであと少しと自分を励ましながら。


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「ただいまー」

後少しと分かっていても汗が出るのは止まらない。背負っていた学生鞄をいつの間にか手で持ち、服を汗で濡らしながら我が家についた。

「おかえりなさい」

温度差で不快にならない程度に冷えた部屋。
それは普段と変わらないのだが、やはりこの返事があると言うのがここ最近の変化である。でもそれ自体には慣れている自分がいた。

「うわっ……すごい汗……見てて暑苦しいからさっさと流してきなさいよ」

露骨に嫌そうな顔をするパチュリー。
まぁ、汗だくの人が急に近づいてきたら俺も同じ様な反応をするだろうし仕方ないか。

「わかった…わかった。だからそんな顔をするな……。それでそっちは何か進展あったのか?」

「……全然ダメね。そもそも異世界とかの情報が少なすぎるし、教えてもらったインターネットって言うのも眉唾なものしかないからね……八方塞がりよ」

「そっか……明日というかこのあとからは俺も手伝えるから何か気になったことがあればまとめて置いて。こっちでも詳しく調べてみたいし」

スマートフォンの普及で個人的にはあまり使わなくなったノートPCを貸して一日の大半をネットサーフィンによる情報収集に徹している彼女だったが、やはりと言うか目ぼしい情報は探し出せないようだ。

了解と短く答えた彼女を通りすぎ、汗を流すため浴室へ向かう。

その時の横顔がやけに寂しそうに見えたのは、自分が暑さにやられているからだろう。

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