書架の魔女の現代入り 〜urban legend Witch

□三話『焦燥』
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BGM 裏心(原曲)


程なくして帰宅し、頭の中で現在の状況を整理する。
しかし考えれば考えるほど自分はなんの役にもたっていないことが浮き彫りになってくる。

「調査とか言ってもオカルトすぎて知識量がたりないし、実際になにか出来るわけでもない。しまいにゃ大事な部分は後輩に任せなきゃならない……なんだかなぁ」

といっても生徒会でも高スペックな周りのメンバーに置いてかれないようにすることに必死だから、自分なりにやれることには全力で取り組んでるだけなんだけども。

「……やっぱ軽率すぎたのかなぁ」

今にしてみればなにが“キミを助けたい”だ。
ほとんど人任せ。更にその相手にまで負担をかけてしまっている。


いや、帰っていたと聞いて拍子抜けしたのは確かなんだけど。

「あら、帰ってたのね」

悶々としていたら後ろからパチュリーに声をかけられた。

「今さっきね」

「難しい顔してたけど、何を考えていたのかしら?」

「考えてたって言うか自己嫌悪……かな」

「自己嫌悪って……何かあったの?」

「いや、別に何でもないって」

「はぁ……隣、いい?」

「えっ?いいけど……」

返事を聞くとボスンと彼女は隣に座ってきた。
そして、一度深呼吸をしこちらを見据えゆっくりと口を開いた。

「貴方に何があったかは知らないけど、もしも今私の事に関して役に立ててないって思っているならそれは違うから。あの時はただのお節介って思ってたけど、今にしてみればこうやって雨風凌げる所に住まわせてもらってるだけでも凄いのよ?」

「だけどさ、実際は菫子に投げっぱなしだし……」

「適材適所だったかしら、自分ができそうにないなら他人に頼ってもいいのよ。
だから今は、貴方ができることで私を助けてくれる?
……あと、一応だけど感謝はしているんだからね」

たぶん彼女なりの励ましだったんだろう。
気恥ずかしくて隣に座る相手の方を向けなかった。

「……ありがとな」

だから顔を隠しながら素っ気ない返事をすることしか出来なかった。

「そういえば、今更なのだけど……」

「どうかした?」

「どうして私を助けてくれたの?」

「どうしてって……困ってる人を助けるのに理由なんているか?」

「立派な考えだと思うけど、理由なく助けるって余程の善人かお人好ぐらいなものよ?
自分がそうされたらなんか裏があるかもってならないの?」

「……確かにそう言われてみればそうかもしれない」

「でしょ?で、実際は何かあったのかしら?」

あの日のことをしっかり思いだし、その時なんで助けようと思ったのか……

「あっ…」

そういえば……。
その前日に彼女と良く似た人と会っていることを思い出す。そんな事は知らないと本人に言われてそれ以降考えてなかったが、その面影を重ねているんだとしたら……。

(一目惚れ……的な?)

理由が、わかってしまった。
そこまで考えて顔が赤くなる。今度はたぶん耳まで赤い気がする。

「急に赤くなってどうしたのよ?もしかして体調悪いんじゃないの」

そういって彼女はそっとこちらの額に手を当ててきた。

「い、いや大丈夫だって!」

「そこまで熱くない……いや、こっちじゃ全然わからないわね……。ちょっと失礼するわよ」

「……あの、パチュリーさん?急にどうしたのでございますでしょうか?」

整った顔が目の前に迫る。
この状況に慌てている自分と、どこか他人事の様に(積極的な奴ならこのままキスとかしてるんだろうなぁ)とぼんやり思っている自分がその場にいた。

「前に咲夜にして貰ったことと同じことをやってみたんだけど……。うん、そこまで熱くないから大丈夫かな」

本当に大丈夫なんだろうか?さっきより顔が赤くなっている気がする。

「……心配してくれてありがとな」

「まあ、貴方に倒れられると私も困るからね。解決法とか調べててしっかり休めてないんでしょ?」

「いや……うん、そうだな。少し休む事にするよ」

大丈夫と出掛かった言葉を飲み込み、彼女の好意に甘えさせて貰う。

「それと菫子に連絡しておいて貰える?明日は私一人で話を聞きに行くからって。…あと、一人だからって無理しないこと」

「わかったよ。色々考えたいこともあるし、明日はゆっくりさせて貰うな」

「ちゃんと休むのよ?」

「子供じゃあるまいし、大丈夫だって」

「本当かしらね……」

訝しむような目でこちらを見つめるパチュリー。その視線から逃れるように立ち上がり、台所へと向かおうとしたが彼女は俺を引き留めるように手首を掴んでいた。

「だから、休みなさいって……」

「そういわれてもなぁ」

昼くらいは作る元気はあるし、自分の中の色々を整理するためにも手を動かしていたい。

「今日ぐらい私が用意するから。今までお世話になりっぱなしだし……」

「え"?」

二重の意味で驚いて変な声が出てしまった。

「何よ。まさか料理程度できないとでも思ってたの?」

「えっと、そうじゃなくてな……」

それもあったけど、あった当初の事を考えると『お世話になりっぱなし』と言われて驚きが隠せなかった。

「じゃあなんなのよ?」

「いや、初めて会ったときと比べると随分態度が柔らかくなったなぁと思ってさ」

「まあね。流石にずっとあんな態度とるほど狭量じゃないわよ。……さっきも話したけど、感謝は、してるんだから」

頬を掻きながら視線をそらす少女の姿を見て、さっき自分の中に浮かんだ感情があながち間違ってないという確信が持てた。

「ぁ……ああ、そうなんだ」

「また顔赤くなってるけど本当に平気なの?」

「これは本当に大丈夫だから!…………じゃあ今日はパチュリーの好意に甘えようかな」

そう確信したから、ほんの少しだけ、彼女の手料理が食べたいと思ってしまった。

「はじめからそうしなさいよ。……けど一応こっちの調理器具の使い方は教わっても良いかしら?」



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