書架の魔女の現代入り 〜urban legend Witch

□四話『幻想少女逹の小休憩』
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BGM 〜永夜抄 〜 Eastern Night.

「それじゃあ行ってくるわね」

「ああ、行ってらっしゃい」

昨日は菫子に連絡を取り、今日はパチュリー一人で話を聞きに行くことになった。

彼女の目には連日調べ事で無茶をしているように映っていたみたいで、今日一日はしっかり休めと何度も釘を刺された。
ので、この機会に夏期休暇の課題や現在の異変…というのだろうか?それに関わらない雑務を終わらせていこうと思う。

長引くことを勘定にいれると今日の時点で課題は終らせて、生徒会関係の作業を進めてしまうのが得策だろうか。

「まあ連絡用にスマホは渡してあるし、何かあればこっちに連絡来るでしょ」

ひとまず顔を洗い、気を引き締める。

「さて、さくっと片付けますか」


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ソーサーにのせられたティーカップが二つ、机の上に並ぶ。

「ごゆっくりどうぞ」

そう言うと店員は次のテーブルへオーダーをとりにその場を離れていった。

やっぱり服装というのは現代を生きていくのに重要な要因の一つなんだと改めて実感する。
まさかこの店内に魔法使いと超能力者が向かい合って話しているなんて思いもしないだろう。

それほどまでに目の前に座る彼女は違和感なくこの風景に溶け込んでいた。

「それでーーーって聞いてるの、菫子?」

「え?……うん、聞いてる聞いてる。今のところ誰も気がついてないんじゃない。レイムっちもマリサっちも普段通り……のはず。縁側でお茶飲んで、早苗さんとかも一緒に河童がどうの兎がこうのって他愛もない話ばっかり」

「そう。なら屋敷のみんなは?」

「まだ忙しいのか入れて貰えないわ。マリサっちにも話を聞いたんだけど、普段より警備が固くてなかなか図書室に辿り着けないとか。門番さんと咲夜さんは普段通りかな、少し忙しそうだったけど。レミリアさんと妹さんには会えてないからその二人の様子はわからないの、ごめんね」

「いいえ、それは貴女の責任じゃないから謝らなくていいわ。……でも、そうなるとあれから少し日が経ってるからそろそろ限界よね」

「限界っていうのは……?」

「数日私が留守にしている筈なのに小悪魔が他の皆に何も言ってないとなると脅されているか、何かが私に成り済ましているか……ただ、咲夜や美鈴が普段通りっていうと相当巧みに変装しているのね。まぁ、それもレミィならすぐに気づくでしょうけど」

昨日は入れ替りの事を彼女には話してなかった。
ということはーーー

「……あの、もしかして気づいてました?」

「いいえ、今までは半信半疑だったけど、今の菫子の話で確信を持てたのよ」

少し柔らかに微笑みそのまま続ける。

「私が居なくなったんなら恐らくレミィは賢者のところに咲夜を連れて乗り込むだろうし、彼女のいそうな博麗神社にウチの当主が従者を連れ立って訪れてないならそれは何かが私のフリをしてるから……でしょうね。
だけど彼女も普段通りってなると様子見をしているんじゃないかしら、お互いに。
帰還の方法を知っているのが入れ替わっている私だけだとしたら、レミィだって迂闊に動けないはずだし。
あと菫子がこの入れ替りについて昨日話さなかったのは私の事を気遣ってでしょ?」

「え……えぇ、色々あった日だから余計に混乱させない方がいいって思ったし」

「ありがとう。でも私は大丈夫だから、わかったことは全部話してくれると助かるわ」

「わかりました……」

何故だか無性にレミリアさんのことが羨ましくなった。
通じ合っているように見えたからだろうか。
私にはそこまで真剣になってくれる友人がいないから……というのもあるだろう。
まぁそうなったのは幼い頃からの私が選んできた選択のせい、というのがあるから誰にも文句は言えないのだけど。

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BGM 珍客(萃夢想)

一頻りの情報共有を終えた私達はそのまま同じお店で異変とは関係ない話に時間を費やしていた。

「パッチェさんは魔法使いじゃないですか」

「ええ、そうね」

「それってマリサっちとどう違うんです?」

「あれは【人間の】魔法使いね。私の方は種族、魔法使い。人であることを止めて妖怪……人外の存在としての魔法使いになったのよ。
魔術の真理探求や最奥に手をのばすには人の寿命じゃたどり着けないからね」

「なるほど……だからレミリアさんとは長い付き合いなんだ。もしや人里でたまに人形劇してるあの人も?」

「アリスのこと?ええ、彼女も種族魔法使いよ。自律人形を作るのが目指すところだったかしら……。七色の人形遣いの名に違わぬ目標よね」

「へー……そうなるとマリサっちはこれから魔法使いになるのかな」

「それは本人にしかわからないけど、人の弾幕を盗んでスペルカードにするような奴が同種にいるなんて恥ずかしいから止めてほしいわ」

「なんかパッチェさん、マリサっちにだけやたらと厳しくない?」

「そんなこと無いわ。あれの被害者だから当然の対応よ」

「なるほどなるほど、パッチェさんはマリサっちのことが好きと」

「はぁ?ちょっと菫子……あなた私の話聞いてた?」

あり得ない、といった顔で目の前の魔法使いはこちらを睨み付ける。

「嫌よ嫌よも好きのうち……って話じゃなくて?」

「あのねぇ……。普段から魔導書を死ぬまで借りてくって言って盗む輩を好きになれる?」

「でも死んだら戻ってくるんでしょ?なら、その間は放って置けばいいんじゃない。寿命の差を考えたら人の一生なんて大した期間じゃないわけだし」

「……思ったより貴女ってドライなのね」

「いや、わざわざ嫌いな奴に割く時間が勿体無いからいちいち構うよりも居なくなるまで待った方が早いんじゃない?」

「……好きの反対は無関心って言いたい訳ね。無関心じゃないのは多少とはいえあの白黒に感謝してるのよ」

溜め息をつき、諦めたかのような口調で話し出す。

「短命の只の人間に魔法使いを名乗られるのは確かに癪なんだけどね。
でも、あいつに関わって私の世界が広がったのは確かだから、そういう部分だけは評価してるわ」

「へぇーそうなんですかー」

今の私はとても厭らしい笑みを浮かべているのがわかる。
あぁ、もしも普通の女子高生だったらこんな感じにコイバナとかしていたんだろうか。
そういった憧れが一瞬だけ脳裏にちらついた。

「それで、貴女はどうなの?」

「何が?」

「何がって…いないの、好きな人?」

パッチェさんはさっきのお返しと言わんばかりに意地悪そうに言い返してくる。

「やだなーパッチェさん、いるわけないじゃん。授業中はほぼ睡眠、得体の知れない部活をしてて、学校に友達らしい友達は皆無。そんな私の事を気にかけてくれる人がいるなら紹介してほしいくらいだわ」

「……貴女、少し自分の身の回りの事をしっかり観察してみたら?」

呆れたような彼女の声に私ははて、と自分がおかしな事を言ったか考えてみる。
……うん、どこもおかしくない。
これこそ自分が選択してきた結果のような状態だし。

「いや、どう考えてもそう言う相手はいないと思うんだけど……」

「どうして人間って自分の事となると極端に視野が狭くなるのかしら……。
ほら、一人いるでしょ?貴女の事を気にかけてくれる男性が」

「え"っ……いや、ないない。あの人はあれが普通なの。
確かにクラスの子達が噂してたみたいな人柄だし、人気があるのも頷けるけどさー。
誰に対してもあんな感じなのを目の当たりにしちゃうとね。抱いてた思いも急速に覚めてくってものよ」

「ふふっ……前は好意を持ってたのね。それなら伝えれば良いのに」

「だからそういうのじゃ……!
……というよりもパッチェさんは先輩の事どう思ってるんです?」

私はてっきり『色々とよくして貰ってるけどただの人間よ』とか『貴女は愛玩動物に恋愛感情を抱くの?』とか言われるものかと思っていたけど、目の前の魔法使いの少女は少し考えるような素振りを見せ、少しの沈黙の後にゆっくりと口を開いた。

「出会い方が最悪だったのもあるけど、はじめは『なんだこの人間は。人間が魔法使いを助ける?既に存在を信じてないくせによくもそんな事が言えるな』って心の底では思ってたんだけどね。本気で私を助けるために動いている姿を見ちゃうと少なからず感謝はしてるわ。ちょっとした我儘も渋々聞き入れてくれるし。今は……なんていうのかはわからないのだけど、彼の事は嫌いではないわ」

「そっ……」

それ殆ど恋愛感情の方で好きってやつじゃん!って喉まで出かかったけどギリギリのところでどうにか耐えた。
そして恐らく世の同年代の子達はこういう時に囃し立ててくっつけようとするのがなんとなくわかりかけてしまった。

「ん?どうかしたの」

「いや、別に……」

ここで軽率に告っちゃえば?と言えないのが、そもそもの彼女の目的は幻想郷に帰還することであるのと、仮に伝えたところで一般人の先輩をどうやって向こうに連れていくかという問題がある。
レイムっち……というか博麗の巫女がそんな超個人的な事に首を縦に振るとは思えないし……。

「まぁ彼とどうこうなろうとは考えてないわよ。……そもそも寿命が違うのだから」

少し諦めたような感じに吐き捨てる。それは私の考えを見透かしての呆れから来るものなのか、少なからず期待している自分自身への諦めなのかはわからなかった。

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