書架の魔女の現代入り 〜urban legend Witch

□幕間A
1ページ/4ページ

BGM 嘲りの遊戯(原曲)

「どうしたの、レミィ?」

「それ、もうやめたら?見てて気持ちの良いものじゃないし」

「悪いけど、こればかりは譲れないのよ。いくらレミィでもね」

「あなたがなんの研究をしようが別に構わないのだけど、目的を教えてくれる?
研究……じゃなくて、その姿で何をしようとしているのかを」

私の親友の姿をした何かに問いかける。
するとそれは、私のよく知る声で返答してきた。

「あら、漸く気が付いたの?……てっきり怖くて見て見ぬふりをしていたのかと思ったわ……」

「まさか。あんたみたいな小物に怖気づくほど落ちぶれちゃいないわ。それで、何が目的なの?」

「私は、確固たる個が欲しい。道具として作られ、人間の変わりとして使われるのではなく、私という存在でいるために……」

よく知る姿で、よく聞く声で、その人らしくない言葉を紡ぐ。
はっきりいって反吐が出る。

「ふぅん……。で?それがパチェであるのとどう関係があるのかしら」

「関係……?たまたま私と最後に入れ替わったのがこの魔法使いだったぐらいよ。ただの偶然。それ以上でもそれ以下でもないわ」

「そしてパチェの代わりを演じて、着々と魔力を貯めていたと……」

それでも冷静に話を進める。彼女がどうなっているのかは今はコイツしか知らないから。
今まで干渉しなかったのも下手に刺激して彼女の身に何かあったら……と考えてしまったからだ。
後手後手の対応をしてしまった自分を恨むが過ぎてしまったことはしょうがない。

「それで、あの子は……パチェはどうなってるの?一発殴れば眼が覚めるのかしら?」

完全憑依……だったか?全くの別人が精神はおろか肉体まで乗っ取られ主従の関係になるおかしな異変。それの余波がパチェの身に起きたのだとすれば、まぁ辻褄は合う。
それを引き剥がして、この正体不明を屈服させればひとまずは溜飲は下がるはずだ。

「何を言っているの……?入れ替わったって言ったでしょ。本来のパチュリー・ノーレッジは既に幻想郷にいないわよ」

「何を……」

何をいっているのかわからなかった……
パチェが幻想郷にいない?

「……それに中身は関係ないでしょ?他人を認識するのに必要なのは、その名前と見た目。つまり外側がパチュリー・ノーレッジである私が彼女として振る舞えば、それは本人であるも同然。
中身……精神が違っても本人らしければそれはもう本物なのよ」

「パチェは無事なのか……?」

「だから言ってるでしょ?『私』がパチュリーだって」

「何を寝惚けたことを……!」

「ここじゃ意見が違えば弾幕で蹴りをつけるのが流儀なのよね……。それじゃここは弾幕で白黒つけましょうか、吸血鬼さん。

それは生命に対する自然の試練。
宇宙(そら)より届く灼熱の鼓動。
偽照『ロイヤルフレア』!」

BGM 紅夜(原曲)

「くっ……」

呆けている間に相手は弾幕を放ってくる。

「スペルカードすらも真似るなんて……腹立たしいわね。……でも流石にパチェの体相手に全力は難しいか」

回避にグレイズ、防戦一方。

下手をすれば喘息を拗らせない分普段のパチェよりも手強い相手かもしれない。

「こっ……の!」

弾と弾の隙間からそこまで威力の無い弾を撃ち込む。

「なるほど、こう言うものもあるのね。

鑑定士の瞳を眩ます偽物達よ
その見様見真似の煌めきは時に本物を凌駕する。
模倣『イミテーションストーンズ』」

親友のスペルによく似た、おそらく土の属性のスペルカードで他愛もなく防がれてしまい
、その弾幕の奔流がこちらに雪崩れ込んでくる。

「くぅ……っ」

ロイヤルフレアほどではないが圧倒的な密度の弾幕。その弾の奇跡に狂わされ、気がつけば周囲に抜け出すスペースはなくなってしまった。

「こん…のぉ!」

しかしそれを霊擊を使い突破する。

「なに……!?」

案の定自分の回り以外は弾幕が薄くなっていたようだ。

この好機を逃す訳にはいかない!

「あなたが魔女を名乗るなら、もう少し私を楽しませてみなさいな。

紅い光は胸を射つ。
避け続けられるか、試してみる?
紅符『スカーレットシュート』」

「なるほど、私を狙っての直線的なスペルカードね。でも、そんなのじゃ……!」

「吸血鬼の弾幕がそんな単調なわけないでしょう?ほら、まだ続くわよ!」

大弾の後ろに隠れている中、小弾による時間差の弾幕。

しかしトリックに気がついた彼女はそれを難なく避け始める。

「なんだ、タネがわかればどうってことないじゃない。
けど……飽きてきたわね。この弾幕ごっこも、この姿でいるのにも。
そうだ!良いことを思い付いたわ!次は貴女に成り代わってこの屋敷を牛耳ってあげる」

成り代わる……?こいつ一体何を……。

「魔を祓うには聖水を……、
獣を斃すは銀の弾丸を……ってね
鍍金『アマルガムブレッド』」

放たれる弾丸。それを見て直感する。
これは当たったら不味い。そして霊擊でも弾けないと。
一瞬の逡巡がその凶弾と私との距離を一気に縮め、為す術もなく胸を貫かれる筈だった。

「……あれ?」

その弾丸は私を貫かずに眼前で止まっている。
まるで見えない壁でもあるかのように。
理解が追い付かずに脱力していると、気の抜けた私の声とは真逆な、苛立ちを隠せていない声が図書館に響いた。

「……はぁ。こうなることを危惧して貴女は紅魔館に入れないようにしていたのに……!
どうしてここにいるのかしら?ねぇ!宇佐見菫子ォ!!」

BGM 心揺さぶる都市伝説(原曲)

「それは私が、ひみつをあばくものだから……とか言っておけばそれっぽいかしら?しかしまぁ……本当にパッチェさんと瓜二つなのね。気味悪い……それで貴女はなんなのかしら?」

「何って……私こそがパチュリー・ノーレッジよ?」

「そういうこと聞いてるんじゃあないのよ、スワンプマン……いや、睡眠の度に徐々に入れ替わったというならテセウスの船の方が近いのかしら?
都市伝説絡みだとすると[入れ替わった友人]辺りかな……?」

「あーもう!煩わしい!」

宇佐見菫子にむけて偽物の弾幕が放たれる。が彼女は当たる寸前で私の元に現れた。
当然目標を失った弾は床にあたり消えていく。

「まぁ面倒だから偽物でいいかな……とりあえず、レミリアさん!」

「え、ええ」

突然の闖入者……宇佐見菫子は私に向き直り言った。

「パッチェさんは……パチュリーさんは無事です!それなんで……気兼ねなくそいつは倒しちゃってください!」

「パチェが無事……ってどうして貴女が知っているのよ」

「詳しいことは長くなるので省きますけど、そこの偽物と入れ替わったパチュリーさんは結界の外に弾き出されてまして……紆余曲折ありましたが無事です。その、信頼できる人が助けてくれたので」

「……それで、彼女は?」

「まだ外の世界です。戻り方が全然わからないので……向こうで話した結果、成り済ましてるやつを倒せば元通りなんじゃないかってところに落ち着きました!」

「なるほど……。それはパチェが出した結論なのよね?」

「ええ、それに辿り着くまでだいぶかかっちゃいましたけど……」

「別に構わないわ。それにあの子は無事なんでしょ?」

「無事ですし、なんなら外の世界に慣れ始めてますね。なんか好奇心が旺盛で……」

「ふふ……それじゃあここからは本気を出そうかしら?そうだ、菫子さん」

「は、はい……」

「しっかり目に焼き付けておきなさい?私の……吸血鬼、レミリア・スカーレットの全力をっ!!」



次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ