書架の魔女の現代入り 〜urban legend Witch

□五話『思いの行方』
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BGM 以魚駆繩 (原曲)

「そういえば、パチュリーは花火ってわかるか?」

朝、食卓についたパチュリーに開口一番、そう訊ねてみた。
するとこちらを一瞥し、はぁ……と大きめの溜め息をつき、呆れた顔をして呟いた。

「……やっぱりお似合いよね貴方たち」

「どうした?」

「いや、何でもないのよ。花火は知識で知ってるけど実物は見たことないわね」

「じゃあさ、見に行かないか?」

遠慮がちに誘っているが、個人的にはデートのお誘い……ということになるのだろうか。

「……いいわよ行かなくて。遠くに出るってことはお金もかかるんでしょ?そんな我が儘言わないで大人しくしてるわ」

だがこちらの小さな勇気など露知らず、魔法使いはやんわりと断ってきた。

「そこまで遠くない……というよりこの近くの川辺で久しぶりにやるから、一緒に行きたかったんだけどな……」

だがそう簡単に引き下がるわけにはいかなかった。
自分勝手な理由だが、いつ居なくなってしまうか解らないこの魔法使いと、同じ思い出を共有したかったのだ。

「……ふーん。近くでやるんだ……そっか。
いや、別に私は行かなくてもいいんだけど貴方がどうしても行きたいっていうなら……一緒に行ってあげてもいいわよ」

直前に断ったのもあってやっぱり行きたいと素直に言えなかったんだろうか。
それでも一緒に出掛けてくれるだけでありがたい。

「ありがとう、一緒に来てくれるなら嬉しいよ」

「し、仕方なくよ。……それで、いつからなの?明日?明後日?」

「今日。時間は7時からだから……もうちょっとは家でゆっくりできるしそんなに急がなくてもいいさ」

「今夜って……思ったより急ね」

「思い立ったが吉日とも言うだろ?」

「確かにそうね。でも、こういうお誘いをするならもう少し余裕を持った方がいいわよ」

色々と準備がいるものだからね。とどこかそわそわしながら忠告する魔法使い。

「……もしかして昨日菫子から貰った甚兵衛着るのが楽しみだったり?」

「…………そうだけど、悪い?」

どうやら図星だったようだ。

「いや、悪くないよ」

というよりも自分がパチュリーの甚兵衛姿を見てみたいだけなんだけど。

「じゃあ、時間になったらエスコートお願いね。……優希さん」

すこしイタズラっぽく言い、一度居間を後にするパチュリー。
奥で扉の閉まる音が聞こえてから漸く声が出た。

「急にそう呼ぶのは……それは反則でしょうよ……」

名前を呼ばれた嬉しさと気恥ずかしさで、彼女の姿を直視できるかが不安になってきた。



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