私と不思議な同級生(仮題)

□四月の話
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 突然だけど自分が特別だと思った事はある?
 ただ単にツイてるってだけでもいいし、明確な理由があっての特別でもいい。ちょっと前の私なら勉強はできて、友達も多く、関係は良好。それだけで特別だと思っていた。思い込んでいた。
 けど、今考えてみればそれだけじゃ全然特別じゃなかった。
 今にして思えばそのころ私が思い描いていた特別っていうのは、アニメ的特撮的マンガ的な個としての特殊な能力を持った存在だったことに気が付いたのは確か年齢が二桁になった辺りの事だった。
 それから少しして、中学生になった私はそういったアニメ的特撮的マンガ的な特別な存在に憧れつつも、そうなれない現状に嘆息してあきらめてしまった。この語り方だって、何かになれないかと真似てみた結果である。
 そうして、何かの特別になれる期待よりも、何の特別にもなれないあきらめの方が自分の中で大きくなるのを感じながら私は念願の高校生になり―――――――、自分がどれほどに普通な女子高生なのかを知った。


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 四月某日、慣れない電車に揺られ、もみくちゃにされながら、やっとのことで最寄り駅につく。
 もしも過去に戻れるなら、せっかくだから知り合いが誰もいない所を受験しようと思った中学生の私に家から近い高校の方がいいと懇切丁寧に教えてやりたい。ただそんなことを考えてもどうしようもないので、小さくため息をつき周りの同じ高校の制服を着た人たちの流れについていくことにした。その流れに乗り、改札をぬけ街に出るとどこか落ち着かない足取りで同じ格好をした人たちが、恐らく同じ目的地に向けて歩いているのが見えた。その落ち着かない理由が期待からなのか不安からなのかはわからないが、たぶん半々なんだろう。
 そんな二つの大きな思いに押しつぶされそうになりながら、これから三年間お世話になる場所の門をくぐった。

 滞りなく進む入学式、よくある高校生活における注意事項を垂れ流すかのように続く校長の言葉。一部の同級生がその催眠攻撃に舟をこぎだしているのを眺めているうちにクラス単位で教室への移動が始まった。前のクラスに続くように私のクラスも順に進んでいく。こうして入学式はつつがなく終わり、これから始まるであろう高校生活への淡い期待を胸に教室へと…一年三組という新しいコミュニティの中へと足を踏み入れた。
 しかしながら、知り合いがいないという事はゼロから交友関係を広げていく必要があるというわけで……。中学生のころはクラスの半分は別の小学校の子で、それでも全体と打ち解けるのにGWぐらいまでかかっていたような記憶がある。ただ幸いなことにコミュニケーション能力は人並みにあるから、ここでも大丈夫だと信じたい。そう考えながら指定された席に座り一息つくのと、教室内に担任となる教諭が入ってきたのはほぼ同時だった。
 東雲教諭は教壇にたち、台本でもあるかのような棒読み加減でゆるく自己紹介を進めていく。それを終えると、
「私の事よりも皆はクラスの事が知りたいだろうし、自己紹介でもしてもらおうかな」
 と、新学期特有のイベントの開始を宣言した。
 名簿順に座っているため、数字の若い方……廊下側の子から順々に立ち上が名前と趣味を個性豊かに述べていく。明るかったり、聞き取りずらい声量だったり、淡々としていたりと……。出席番号が後ろの方の私は他の人の自己紹介を聞きながら刻一刻と迫る自分の番に内心びくついてるのだ。この感覚は解るでしょ?
 なんとか噛んだりせずに自分の番を終え、そのあとは特に突拍子もない自己紹介が始まるわけでもなく、すんなりと全員の挨拶が終わる。わかっていたことだけど、高校生になったからといって劇的な変化があるわけじゃなく、今までと同じ日常の繰り返しなんだろうと思うものの、心のどこかではやっぱり何かがあってほしいとうすらぼんやりと考えながら、窓の外の青空にポツンと浮かぶ雲を眺めていた。

 翌日、まだ授業は開始とはならず、クラスの交友を深めるという事で一学年は各クラスでの親睦会となった。
 正直なところ、自己紹介だけじゃまだ少しクラスの皆との間に壁があったような気がしたからこの催し事はありがたい。
「この教室しか使えないから、室内でできる事を考えてね。あと私がいると邪魔でしょうし、時間まで職員室にいるから何かあったらそっちまで報告に来るように。じゃ、そういうことで」
 それだけ告げると、東雲教諭は足早に教室を出ていった。残された生徒たちはというと、静かになった室内で誰かが口を開くのを待っているみたいだ。
 こういう時の時間の進み方って、普段よりも倍以上長く感じるんだよね……と思っていると、左前に座っていた男子が立ち上がりおもむろに口を開いた。
「それじゃ、とりあえずやりたいことある奴いる?ここさっさと決めて長めに遊ぼうぜ!」
 確か彼は、八星(やつほし)くんだ。こういう時に率先して動けるだなんて……と思うと同時に、ここで動けば何か変わるんじゃないかという考えが頭をよぎる。ただ、一歩を踏み出すのを躊躇っている自分も存在した。
 教室内は彼が口を開いたからかあちこちから相談する声が聞こえだしている。ここで一番に声を上げないと昔と同じで、何者にもなれないままだぞと自分で自分を鼓舞する。
「あ、あのっ!」
 緊張からか上擦った声が出てしまった!そのせいか、クラスの視線が私に集まっているのを感じる。
 ここまで目立ちたいわけじゃなかったんだけどなぁ……と自分に嘆息しつつ、息を整えてから閃いた懐かしい遊びの名前を口にした。
「なんでもバスケット……なんてどうかな?」
 しんっ…と静まり返る室内。あぁ、やっぱり子供過ぎた提案だったかな……と発言したことを少し後悔しだした時、
「……それなら遊びながらでも皆の事わかりそうだからいいんじゃない?」
 と、誰かが提案に乗るような発言をしてくれた。
 そこからはあれよあれよという間に、細かいルール調整、今回だけの質問禁止ワード(主に身長や体重など聞かれたくない質問)を整え、座席を準備し、私以外の皆が席に座ったところで我に返った。
「え、一番目私なの?」
「そりゃ、提案者だからな。いいお題頼むぜー?」
 八星くんにそういわれ、それに続くように周りから
「お願いねー、日向さん!」
「面白いのをお願い!」
 と応援するような声が聞こえてくる。
 少しだけ皆との壁が取り払われたならよかったと思い、一つ目のお題を宣言する。
「それじゃ、―――なんでもバスケット!」
「「「「いきなりかい!」」」」
 その宣言と同時に、全員が席を立つ。
 一足早く椅子に座った私はその光景を笑いながら見ていた。
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