スミレソウの咲くころに

□宇佐見菫子の一存
2ページ/6ページ

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
宇佐見菫子の手記
20xx/6/7
 梅雨入りなのか最近は雨の予報が多く感じる。
 幽霊がでると噂の団地へ向かうも収穫なし。夕方でもでてくると思ったんだけどなぁー。
 
20xx/6/8
 神社で話してたらまたサナエちゃんにあった。この前話した時以来だからこの一週間ちょっとで起きたことを説明する。
 すると彼女はとても安心したような素振りを見せ「それなら安心ですね♪」と屈託のない笑顔を見せてくれた。
「理解してくれる人がいるかどうかって本当に大事ですからね。特に私達みたいな存在は……」
 と口にしていたけど、どういう意味なんだろう?

20xx/6/13
 ここ数日は幻想郷もこっちも雨ばかり。気が滅入ってしまう……。ただ、向こうの雨はなんだか少し優しい感じがする。不思議と嫌じゃない雨。
 けど梅雨時期はほんっとめんどくさい。ひどい時は足元ぐちょぐちょになるし……。

 今日は勝手に借りてる部室の整理と模様替え。ウッチーが居るから超能力でぱぱーっと出来ないのは煩わしかったけど、力仕事はほぼ任せたからそこまで苦じゃなかった。


 ……どこかで労わなきゃかな。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 その夜。

 現在時刻は午後11:40。正直なところ警察に見つかったら補導される可能性が高く……いや、見つかれば確実に補導されるわ。そうなったら学校に侵入どころの騒ぎではない。
 電車を降り、改札を抜け、いたって普通の足取りで駅舎を離れる。
 流石に学生服で来るのはリスクが高いので、適当な私服で暗い町を進んでいく。
「というか宇佐見のやつ、駅で待ってるんじゃないのかよ……」
 会長の姿を探しながら駅前を少し離れ、人通りが少ない横道に入ったところで突然声をかけられる。
「いやー流石に駅前で待ち合わせは危なかったからね」
「うわぁ――――んぐっ!?」
「大声出さないっ!」
 こんな夜中に声をかけられるとは考えてなかったため、思わず声をあげてしまう。ただ、その前に口を押さえられてしまった。
 目を凝らして口を押さえてきた相手を捉える。その正体は探していた宇佐見本人だった。
「落ち着いてね。流石に叫び声はいまの時間じゃ危ないから……」
 こちらの口を押さえながら謝ってくる宇佐見。
 声を出せないためこくこくと頷く事しかできない。
 その動きをみて察してくれたのか、口を塞いでいた手を退かしてくれる。
「あっ、ごめんね」
「っはぁ……いや、俺の方のこそ悪かった。それじゃあとは目的地に行くだけか?」
「いいや……目的地に行って、その真相を解き明かすのよっ!」
 押さえ目の声量で宣言する宇佐見。
 まあ解き明かすもなにも、うちの学校じゃ大したことは起こらないだろう。オカルトスポット探索でもたまに起こる程度しか不可思議現象は起こらないんだから。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 前言撤回。夜の学校ってだけで充分なにかが起こるようだ。


 学校に到着した俺たちは一先ず拠点とも言える部室へと足を運んだ。
 そして、昼間に話した七不思議(仮)を片っ端から調査しようと思ったのだが……。
「あの七不思議……いや、もう七つじゃないんだけど、『てけてけ』って学校の怪談に数えられがちなのに、そこまで学校と密接な関係がないわよね」
 と宇佐見が部室を出る直前に呟いた。
「……そういえば名前は聞いたことあるけど詳しく調べた事なかったな。詳細って知ってるのか?」
「ちょっと、私に頼りすぎないでよ……まあ、わかるんだけど。
 そもそも、『てけてけ』の怪談話は北海道の方で語られる話なの。全部話すと長いから要点だけ絞ると、ある冬の寒い日に女学生に起きた事故。それが原因で生まれた存在がその『てけてけ』。
 でも、この話が何で七不思議に数えられるのかは正直なところわからないのよねぇ。こういう昔の怪談話っていうのの広まり方は口伝になるから、その中で一番重要なところを押さえておけば怖い話として成り立つし、それを聞いた人が更に話を盛って……って感じに誇張され続けるからね。
 女学生ってことで七不思議に数えられてるのか、なにか別の怪談、噂話と同一視されてるのか……。ま、この学校に出るっていうならその正体は是非とも暴いてみたいわね」
 と話していたのが数十分前。
 そして今は……。
「だぁーかぁーらぁー!理科室は後にしようっていってたんだよぉぉぉ!」
「あー、もう!うるっさいわね!そんな口を動かす余裕あるなら足を動かせ足を!」
 二人して全速力で廊下を駆け抜けていた。
 ……正しく言えば二人と二体というのが問題なのだ。
 思えば、事の発端は些細なことだったのかもしれない。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 一番安全な『トイレの花子さん』から検証をするということで、噂の残る旧校舎三階の女子トイレ前に二人して訪れたの訳だが……
「流石に俺は入らないからな」
「いや、これで意気揚々と入ろうとしたらこのまま夜の学校に置いてくところだったわよ……。それじゃ噂通りやってみるから、見張りよろしく」
「ああ、任された」
 スマホのライトを頼りに暗闇の中に宇佐見は進んでいく。
 少しして室内からノックの音と彼女の声が聞こえてきた。
「はーなこさーん、あーそびーましょー」
 しかし、高校で『トイレの花子さん』とはな……。やっぱり過去に花子という女子生徒がいて、その子がなんやかんやでここで命を落としたというのが鉄板だろうか?
「なんやかんやってところがいくつかパターンあるみたいだし、そもそも友好的な場合もあるし……」
 怖い話で広まってはいるけど意外と人間味あるっていうのが花子さんの話の良いところではあるが、ひとつでも間違えたら間違いなく死が待っているのが七不思議足る所以だろう。
 高校で命を落とす……。小学生の頃に聞いた『変質者に追われ、トイレに隠れたものの見つかって殺されてしまった』……というのはあり得なくもないが。高校で、となると少し現実味が薄い……。そうなると他にあり得そうな事と言えば。
「いじめが原因とか……?」
 そう考えて体が強ばる。呼び出す手順って何があったか聞いておけばよかったか?
「ほい、おまたせー」
「おっ、おう。大丈夫だったか」
「大丈夫じゃなきゃここにいないっての」
「そっか、そうだよな。今更だけど呼び出す手順ってどうやるんだ?」
「……まさかウッチーがやるっていうの?」
「いや、そうじゃなくて。……純粋に気になってさ」
「んー。怪しいけど、いっか。
 とりあえず、三番目の扉の前で、三回『回って』、三回ノックしてからさっきみたいに呼び出すのよ。けどさー、犬みたいよね。この回るっていう手順」
「言われてみれば確かに……だけどさ、そう伝わってるんだから意味はあるんだろ?」
「どうなのかな。あんまりこんな事言いたくないけど、この学校の花子さんは苛められてたのかしらね。
 例えば、他に使う生徒が来ないように見張りを置いて、トイレの中では三回回ってなにかを言わされて、笑い者にされ……」
 少し寂しそうに喋る宇佐見の話を聞いていて、はて?と思う。
 見張りを置いて……ってそれは
「今の想像って、今のこの状況じゃないか?」
「……ありゃ。そう言えばそうね……」
 ゾクリと背筋が震えた。
 この薄闇の中、俺たち二人の他に何かがいる気配がしたのだ。
 それを知ってか知らずか宇佐見は喋り続ける。
「三回回るが犬っぽいから苛めってのは短絡的かな?あとは変質者から逃げきれず隠れた個室で殺害されて……とかが良くある理由だけど、この場合って友好的な子なのかそうでないのかわからないわよね。調べてみても半々くらいだし、ウチの高校はどっちなのかしら……って聞いてるの?」
 返事ができなかった。というのも宇佐見の背後にぼんやりとだが人影が見えたからで、目の前の彼女はその存在に気がついていない。
「ちょっと、ウッチー!?」
「え……ああ、悪い。それで、なんだっけ」
「ぼーっとしすぎよ。時間は限られてるんだから、しっかりしてよね」
 了解したと頷く。再度人影が見えた辺りを注意して見るが、そこには夜の暗さが広がっているだけだった。
「それじゃ、次は理科準備室ね!サクサク行くわよー」
「いきなりそんな危ない場所でいいのか?後にしておいた方がいいんじゃ……」
「どっちにしろ探さなきゃいけないなら先に済ませておくべきじゃない?ま、いないだろうけど……いるなら人体模型と骨格標本同時に襲ってくるぐらい起きてほしいものよねー」
「そんなあからさまなフラグ立てなくても……」
 おそらく俺たち以外の何かはいる……はずなのだから。それが人がどうかはわからないが。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ