スミレソウの咲くころに

□如月センディング
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 金曜日の放課後、教室で駄弁ってたのもあって日は結構傾き、夕方よりも夜に近くなっている。まだ太陽は出ているが……所謂黄昏時というやつだ。
 勝手に空き部屋を利用しているのがバレないように遮光カーテンを閉めてあるので、光が漏れないように窓とカーテンの間から外を眺める。……といっても外から誰かがいることを気付かれてもいけないので、すぐに誰もいない室内へ体を戻す。
 もう十分くらいは待っただろうか?正直携帯で『今日は活動あるのか?』と聞けばすむ話なんだが、半年以上このサークル活動を共にしているから連絡がなくても教室にいけばいるだろうと思っていたので、誰もいないのは新鮮といえば新鮮である。
 そんな風に思っていると、小さく音を立てて扉が開き、待っていた人物があらわれた。
「はー……どっと疲れた……。あれ、ウッチーまだいたんだ?」
 宇佐見は部室に俺がいる事に驚いた様子で訪ねてきた。
「まだいたんだって……どういう事よ」
「いや、さっき教室をみたらいつもの二人しか居なかったから先に帰ったものかと」
 それを聞き、あぁ、と納得する。
「煩い方の絡みがめんどくさくなったから先帰るって抜けてきたんだ。まあ、少し早く帰ろうかとは思ってたんたけどさ
「そっか……って、早く帰るつもりなら別に来なくても良かったのに」
 確かにと笑いながら返事をする。それこそ俺の方から『今日は先に帰るわ』って連絡いれれば済んだ話だ。
「まあ、なんというか……放課後にここで喋ったり活動したりするのが楽しみになってるってだけだよ。
 宇佐見の方こそ何してたんだ?」
「んー……先生に雑用押し付けられて、戻ろうとしたところを柏野さんと、桜井さんに捕まっちゃって今まで喋ってたのよ。
 そんなわけでもう疲れちゃったから……戻って早々悪いんだけどさ、今日はもうお開きでいい?」
 そう申し訳なさそうに彼女は聞いてきた。
「気にすんなって。疲れてるんじゃ仕方ないし、そもそも今日は何か活動する予定じゃなかっただろ?」
 こちらの言葉に少し笑顔を浮かべ、そうだね、ありがと。といい宇佐見は荷物をまとめ始める。
「最終下校時間って訳ではないから、ゆっくりでもいいんだぞ?」
「あれ、早く帰らなくていいの?何か用があったんじゃ」
 まとめ終わるのを出入り口のドアに背中を預けながら待っているとキョトンとした顔で彼女は尋ねてきた。
「いや、結構外が暗いのに女子1人で歩かせるのも……どうせ駅までは道同じなんだし」
 さっき外を見たときでもだいぶ暗かったが、冬場だと暗くなるのはあっという間だ。
「……なーんか企んでそ……あー!なるほどね。ポイント稼ぎかしら?」
 1人で納得し、今度はニヤニヤしながら尋ねてくる。
「ポイントって何のだよ?」
「しらばっくれちゃってもー。男子ってこの時期はチョコ欲しかったりするもんでしょ?」
 そういうことか……とこちらも納得する。
「別にチョコ目当てでなんかするって訳じゃねぇって。何もなくても外が暗かったら同じようにするっての」
「えー、つまんないのー」
 こちらの回答が気に入らなかったのか、少しブー垂れてしまう。
 ただまぁ、全く期待してないのかと聞かれたら多少は期待してしまうのだけれど。
「へぇー、やっぱり期待してるんじゃない」
「……あれ、声に出てたか?」
 こちらの心情を言い当てられたので、無意識で口にしてしまったのかと思い、口にした本人に確認を取る。
「ぅぇ……あ、うん!思いっきり口に出てたわよ!」
 これは思ったより恥ずかしい……。穴があったら入りたいってやつだ。
「無意識って怖いわねー……。じゃあ帰りましょっか?」
 なぜか焦った様子の宇佐見に背中を押され部室を後にした。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 
「それにしても……一気に冷え込んだものよね……くしゅん!」
 人影も疎らだった学校を出て、駅に向かう。日が暮れているのもあり寒さが際立つどころか、北風も吹いてるせいか余計に冷えたように感じる。コートまで着込んでいるが、それでも寒さの方が強い。
 宇佐見の方は……女子だからというかスカートだから余計寒いんだろう。
「大丈夫か?」
「うーん……大丈夫よ。手袋あるし、首元までコートのボタン止めればそこまで寒くはないからね……くしゅん!」
 口元を押さえながら再びくしゃみをする宇佐見。小さな声で「さむ……」と呟いていた。
「ったく、寒いなら無理すんなっての……ほら」
 みかねて鞄からマフラーを取り出し宇佐見に手渡す。
「耳が良いことで……っていうかウッチーはどうするのよ?」
「俺がつけるのって地元の駅から家までのチャリ乗ってる間だから、気にすんなって」
「なら借りちゃうけど……ありがと」
 渋々といった様子で宇佐見は首にマフラーを巻く。
 そのタイミングを見計らったかのように冷たい風が吹いた。
「うぅ……やっぱりマフラーあると段違いだわ。スッゴい快適!どうして今日に限って忘れたんだろ……って、ウッチー大丈夫?やっぱ寒いんじゃない?」
「……平気だって。手袋してるし、コートも首元まで止めてるんだから、全然寒くもなんともない……」
「それ全部さっき私が言ったんだけど……」
「まあ、寒いっちゃ寒いけどさ。このくらいなら問題ないって」
 さっさと駅まで行こうぜと宇佐見の前に出る。
 後ろにいる宇佐見は納得いってないようで、なにか言いたげにこちらを見ている。振り向いて確認したわけではないが、なんとなくそんな気がする。
「……風邪、引かないでよね」
 後ろの彼女がぼそりと呟いたが、気恥ずかしくてなにも反応できなかった。
 数分の無言。風は冷たく駅に近づくにつれて、喧騒は大きくなってくる。それに応じて居心地は悪くなり……。
「あの!」「あのさ」
 と同じタイミングで声をあげてしまった。
 それがおかしくて、二人して笑い出す。
「それで、ウッチーはなに言おうとしてたのよ?」
「あーいや、無言で気まずかったからコンビニでもよろうかって思ってさ。そっちはどうしたんだ?」
「私は、その……さっきの……じゃなくて!ウッチーと同じよ。うん」
 何かを言いかけた宇佐見は、慌てて訂正する。
「そっか。ならいいんだけど……」
 何かを隠したようで、若干腑に落ちないが追求する必要もないため話ながら近くのコンビニへ入る。
「それで、宇佐見はなに飲むよ?」
「うーん……ミルクティーかなぁ。あっ、もちろんホットね!……って何?奢ってくれるの?」
「……まぁ、飲み物一本くらいなら別に構わないけど」
 マジ?ありがとー!と少し大袈裟に喜ぶ少女がほんの少し高い紅茶を手に取ったのを見て、そういうところ抜け目ないよなぁ……と思いつつも、手渡された物を受け取りレジへと向かった。


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