書架の魔女の現代入り 〜urban legend Witch

□プロローグ 『夢と出逢いと』
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視聴覚室の戸を開け中に入る。
カーテンは閉めきられているが空調付きのこの部屋は先程まで歩いていた廊下に比べたら断然快適だった。

「宇佐見さーん?」

電気はついているから、まだ部屋には残ってるはずなのに返事がない。

「あれ?」

入り口からから少し進んで隠れていないか辺りを見渡す、すると一ヶ所だけ机の上に物が広がっている場所があった。
そこに近づくと宇佐見さんは机に突っ伏しながら気持ち良さそうに寝息を立てていた。
こりゃ仮に会長がいたらまた口論になるやつだ。
起こすのも忍びないので。少し離れたところの席を使う。なるほどあの帽子とマント
……じゃないな膝掛けタオルみたいなやつの色が黒だったから黒い机と一体になって分からなかったのか。

あまり寝顔をジロジロ見るのも失礼なので散らかっている机の上に視線を移す。
自習でもしていたのか、ノートに筆記具、教科プリントも何枚かある。
しかしその中で目を引いたのは、五枚のカードだった。

「なんかの番組で見たことあるような……なんだっけ?」

わからないのなら持ち主が起きたときに聞くのもいいだろう。
幸いというかなんというかこのあとの予定は何もないんだし。

しかし、あまり人が来ない教室とはいえ鍵もかけずにここまで寝入ってしまうのは少し不安になる。
うちの生徒に限ってそんな事はしないと思うんだけど、高校生と言う時期を考えると若さが暴走して間違えを犯す事もあり得なくはないから……。
今までが大丈夫だったからと安心していると急に、なんて事もあるからそれについても今日は話しておこう。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

椅子に腰かけて寛いでいると携帯のアラームが静かだった室内に木霊する。それから少しして寝ていた宇佐見さんはモゾモゾと動き、手慣れた様子でアラームを止める。

「んっ……あー、楽しかったぁ」

ふわぁと欠伸を交えながら恐らく夢の内容を反芻しているのだろう。その顔は晴れやかだった。

「おはよう、宇佐見さん。起きた直後で悪いんだけどお話に付き合ってもらっていいかな?」

最終下校時刻にはもう少しだけ時間がある。手短にすめば問題はないだろう。

「……んにゃ!?ど、どちら様ですか?サークル入会希望なら明日に……」

「生徒会の千歳です」

「生徒会……?
……あれ以降べつに問題起こしてないんですけどなんか文句でもあるんですか?」

こちらが生徒会のメンバーとわかると急に刺々しい態度になる。いや、あんなことになったから当然といえば当然だけど。

「文句というかまた違反してないかの見回りみたいなもんだよ」

「へーお暇なんですね、生徒会って」

「いやー暇というか他の三人のお陰で極端に仕事がないというか……それで今日は何をしてたんだ?」

「……自習です」

「優等生はこういうところで努力してるのか」

「嫌味を言いに来ただけなら帰っていいですか?」

「あーごめんごめん。特に問題なければいいんだ。嫌味に聞こえたなら申し訳ない。
……というか先生や会長が目くじら立てすぎなんだよな」

「え?」

「だって君は非公式サークルと理解しているし、特に部費を要求してるわけじゃないだろ?
活動内容がちょっと不明瞭なのとこの間の騒ぎのせいで風当たりが厳しいかもだけど、出来る限り宇佐見さんのサークルが潰れないようにしたいなとは思ってる」

「なーんか怪しいんですけど……」

「信じてほしいってわけじゃないけど、応援はするつもりだよ。騒ぎの後の約束はこうやって守ってくれてるし」

「……」

「そういえばあのカードってなんなの?どっかでみた覚えがあるんだけど……」

「カード……ああ、ESPカードの事ね。多分超能力の番組とかじゃないですか?ほら、透視して模様を当てるやつです」

「あー」

なるほど確かに最近の番組で特集してたのを流し見した覚えはある。そのときのイメージがどこかに残ってたのか。

「……千歳先輩は超能力者って信じます?」

「んーなんかテレビとかのはトリックあるんじゃないかって疑っちゃうね」

「で、ですよねー」

「でも、本当に使える人はいるんじゃない?この世の中解明され切ってるわけでもないし」

以外と宇佐見さんが超能力者とかだったりねと冗談混じりに茶化してみる。

すると彼女は面食らったような顔で硬直していた。

「宇佐見さん?大丈夫?」

「えっ、いや大丈夫です!そっそろそろ下校時刻ですし帰りましょ、先輩!」

「待った待った、軽くでいいから片付けて!散らかしてるとまた会長が面倒くさ……会長が注意しに来ちゃうから!」

声を出して宇佐見さんは笑う。

「……ふふっ、先輩も生徒会長には不満あるんですね」

それにつられてこちらも笑いながら返事をする。

「そりゃあね……いくら完璧超人だからって全てが正しいわけじゃないからなぁ……」

互いに一頻り笑いあった後、さっと片付けをはじめる。

「そういえば……」

「どうかしましたか?」

「いくら人が来なそうな教室だからって、鍵かけないのは危ないぞ?」

「?」

「一応共学なんだし、あんなに無防備に寝てたら盛ってる男子からは襲ってくださいって餌をおいてるようなもんなんだから」

「いやいや、なにいってるんですか?私ですよ?自分で言うのもあれですけど、こんなチンチクリンに欲情するような奴なんて……」

「自分であんまり卑下しないの。普通に宇佐見さんは可愛いから油断したら駄目だと思う」

「ひゃ……いや、あの、そう真顔で言われると……ですね?恥ずかしい、です……

というかですよ!ほぼ初対面の女の子に可愛いとか言うのに驚きです!……いや、別に、悪い気はしないんですけど。悪い気はしないんですけど!」

「あっ、ごめん。その、学校だからって油断しすぎないでって言おうとしただけなんだ」

「……わかりました。今度から気を付けます」

そうこうしているうちにお互い退室の準備は整ったようだ。

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