書架の魔女の現代入り 〜urban legend Witch
□二話 『昼の校舎にて』
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BGM 疑惑の芽生え(原曲)
気が付くと辺りが暗くなっていた。
どうやら眠ってしまったようだ。
「ようやく起きたのね」
声のした方に顔を向けるとラフな格好をしたパチュリーがいた。
「……んー」
「まだ頭が起きてないのかしら?」
「……だいじょうぶ」
「はぁ……ちょっと待ってなさい」
変な時間に寝てしまったせいか全然頭が働かない。
「ほら、お水。これ飲んで目を覚ましなさい」
コトリと眼前にコップが置かれる。
それをゆっくりと飲み干して一つ伸びをすると段々と目が覚めてきた。
「ありがとう、パチュリー。……ところでどうしてそんな格好してるんだ?」
「どういたしまして。もうすぐ向こうに戻るって考えると、もうちょっとこの世界を見ておきたいと思ったのよ」
そういえば寝てしまう前に外に連れ出そうと考えていたことを思い出す。
「じゃあ、今からいくか?」
「そうね。それじゃお願いしようかしら」
「今日はこの前に行ったのとは反対方向でいいか?」
「それはお任せするわ」
こうして夕食も込みの近場散歩が始まった。
といっても当てもなくうろつくだけ。
それでパチュリーが気になったところに足を運ぶ。それの繰り返し。
あっちに、こっちに、と行きたいように進んでいく彼女の後ろを離れないようについていった。
そしていくら日が暮れたといってもまだ夏真っ盛り。夏休みも後半戦にはまだ早い時期だ。
それは夜の暑さも同じことで、彼女がへばらない内にうまい具合に家の方へと誘導する。
時間にしては一時間に満たない程度だったが満足してくれたようだ。
そして……
「あら、もう戻ってきたのね」
そう口にした彼女は少しの間空を見上げるとこちらを向き、ありがとうと伝えてきた。
「急にどうしたんだ」
「最後ならちゃんと感謝は口にしなくちゃって思っただけよ」
「最後ね……。もう戻る方法がわかったってことか?」
「だいたいね。菫子と原因を調べて、後はこういった事に詳しいやつがいるから、そこからも話を聞いて……これ自体が突発的な現象だろうし、すぐにでも決着はつくわ」
「そっか……こちらこそ楽しい時間が過ごせて良かったよ」
「……それは本心?」
「ここでお世辞を言ってどうするんだ。紛れもなく本心だよ」
「実はさっき向こうで菫子に聞いたのよ。貴方は口が上手いうえに話し相手が言って欲しいような言葉選びも得意だって。だから本心と言うか貴方の心に正直に答えて」
そこで彼女は言葉を区切り、改めてこちらに問いかけて来た。
「さっきの言葉は貴方の本心なの?」
と。
「……正直に言えばだ。初めはなんか面倒な事が起きたなって思ったよ。会ったはずなのに初対面って言われるし、魔法だの異世界だのいま流行りの異世界転生が起こったのかとも考えたし」
「……そう」
「けどな、そういうのを差し置いてパチュリーといる時間は楽しかったよ。お世辞でもなんでもなく、本当に楽しかったんだ。誰かと家で食事するなんて本当に久しぶりだったし……他にも色々全部引っくるめてさ、ありがとうな」
「……本当に菫子のいってた通りね」
「なんだよ、信じないっていうのか?」
「信じるわよ。だって、そんなに顔を赤くしながら口に出してくれたのだもの」
口元に手を添えこちらを軽く指差しながらはにかむ彼女。
その顔は今まで見てきた表情のなかで一番優しく、そして可愛らしい顔だった。
「ふふっ……それじゃあ改めて。優希、ありがとう」
「……ああ、どういたしまして」
何で急に名前を?と聞く気にはなれなかった。
たぶん直前のことで恥ずかしかったのかもしれない。
あと、聞いたとしてと最後なんだから構わないでしょとか言われてしまいそうだ。
こうして図書室から始まった一連の騒動は終わりを迎えた。
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