書架の魔女の現代入り 〜urban legend Witch
□五話『思いの行方』
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BGM 明日ハレの日、ケの昨日(非想天則)
折角の花火大会だから自分も前に来ていた甚兵衛を引っ張りだしてきて一度袖を通してみる。
「全然着てなかったけど以外と着れるもんだな」
小さくなったとは一切感じず、むしろ丈が調度良くなったとさえ思える。
思い付きで探したとはいえ、出掛ける前に見つかったのはラッキーだった。
「あら、貴方もそれを来ていくの?」
「久しぶりにやる地元のイベントだからね。それで、パチュリーは準備……」
振り向いた先には想像以上に可愛らしい魔法使いが立っていた。
「準備は出来てるわよ……ってじっと見てどうしたの?
あっ、……やっぱり似合ってないのかしら」
言葉に詰まっていると少し寂しそうに俯いてしまった。
「……っ、そうじゃないって。その思った以上に似合ってて……なんていうか、見惚れて……」
慌ててそんなことないと言おうとしたら、思っていたことも口に出してしまい咄嗟に口を覆ってしまった。
「へぇ、見惚れてたのね……」
先程とはうってかわって悪戯っぽく笑う少女。しまった……さっきのは演技なのか。
「それで、どう似合ってるのかしら?ちゃんと口にして貰える?」
ニマニマと、笑いを堪えるようにしながらこちらに問いかけてくる
「思った以上に、……ったよ」
「?思った以上に何?聞こえなかったのだけど……」
「思った以上に可愛かったんだよ……。だから見惚れてた」
改めて口にすると多少恥ずかしさが込み上げてくる。
そして言われた本人はというと
「かわ……あ、うん。ありがとう……」
照れて顔を赤くしていた。
「じゅ、準備できてるならそろそろ行こうか?早い方が見やすい場所がとれるし……」
この空気に耐えきれなくなって会場へ向かうことを提案する。もとよりそのつもりでいたんだけど、悪戯な魔法使いのせいでちょっと変な感じになってしまった。
「そうね。折角だし、よく見れる場所をお願いね」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「……凄い人の数ね、思ってた以上だわ」
遅かった……。
河川敷、近くの橋、少数の出店が並ぶ沿道……どこも人の数が凄い。このあたりに本当にこんな数が住んでいるのかという感じだ。
「出遅れちゃったかぁ……立ち見になりそうだけどパチュリーは大丈夫か?」
「……できれば人が少ない方がいいんだけど、そんなに我儘言えないんでしょ?大丈夫よ」
そういうパチュリーだったが、先程からちらちらと屋台の方に視線が向いている。
「……屋台、気になるのか?」
「え、あぁ……うん、向こうじゃホントに人間の里の縁日か誰かが企画した催し物の時にあるかどうかだから……」
「といっても、これも縁日じゃないからそこまでいろんなものがある訳じゃないんだ。あって食べ物と飲み物くらいかな」
「そう。でも、あとは始まるまで何もすることないんでしょ?それだったら少し見て回りたいわね」
少しだけ目を輝かせて言う魔法使い。
こういうところだけを切り取ってみれば本当に見た目相応な少女にしか見えないんだけど……。
「そうだな、それじゃ近いところから―――」
ひとまずは屋台の方へ行ってから考えようとしたら腰辺りを引っ張られた。
「……どうしたんだ?」
「えっと……あの人混みの中に行くのよね?」
「そうなるな。……って人混み苦手だったりするのか?」
そういえば学校で会ったときは『人間臭い』とかなんとかいわれたっけ。そうだとすると今も我慢してたりするのだろうか。
「そうじゃないんだけど、思った以上に賑やかだったから……その、はぐれないように掴んでてもいいかしら?」
「それは構わないけど……はぐれたくないなら手でも繋ごうか?」
「本当に色々と極端よね貴方は……まぁ、どうしてもっていうなら私も構わないけど」
わかったわかったといいながら彼女の手をとる。
「……じゃあ行こうか?」
「……そうね、行きましょ」
……今更ながら好意を寄せる相手と手を繋ぐというのは割りと勇気がいることで、このお祭りの独特の空気がなければこんなことはなかっただろう。
パチュリ―のため……と言いつつ、こういった事を期待していた打算的な自分に少し嫌気が差す。けれど、いつ居なくなってしまうかわからない彼女との思い出が欲しいと思う気持ちは本当で……。
手を繋いでいて本当は嬉しいはずなのに、握っている少女の手の感触も温度もわからないくらいに頭の中はぐるぐるとその事を考えていた。
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